異業種間コラボレーションは大学から生まれる
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サマリー:異なるセクター間の連携を通じた社会問題の解決を求める声は多いが、実際にはほとんどのプロジェクトが失敗している。成功する連携には、異なるアクター同士を結びつけ、協力関係を築き、アイデアを支援するための仲... もっと見る介者が存在する。大学は、その仲介者として理想的な立場にあるという。本稿では、大学がこの役割を果たすために必要な3つのプロセスを紹介する。 閉じる

大学はコラボレーション推進の
重要なプレーヤーである

 セクターの垣根を越えたコラボレーション、すなわち多様なアクターの能力やスキル、リソースを組み合わせることこそ、複雑な社会問題や環境問題を解決するための最良の方法である──このような考え方が研究者や実務家の間で広がり始めている。そして、そうしたコラボレーションを推進するうえで重要なプレーヤーとして、大学が存在感を増しつつある。

 これは意外なことではない。大学の技術移転機関は、学内の科学的特許を市場で通用するプロダクトに転換することに苦戦しているケースが多いが、少なくとも社会問題の解決に関しては、大学が持っている強力な研究・教育能力と組織的な強みをさらに存分に活用できるはずだ。

 たとえば、ニューヨーク大学(NYU)では、世界中の国々から集まってきた教授陣が13のスクールと90以上の研究所に属して研究に取り組んでいる。2023年には、米国の国立衛生研究所(NIH)や全米科学財団、連邦政府や州政府、自治体政府の助成金支給機関、そしてさまざまな企業や財団などから助成金の支給を受けた研究者が600人近くに上った。

 また、ニューヨーク大学は学生の多様性も極めて高い。特定の民族が突出して多いということはなく、2023年に入学した学生の中で最も大きな割合を占めている民族でも全体の22%に留まり、130カ国を超える国から学生が集まっている。学生たちのキャリアの選択肢も多い。アカデミズムや教育の世界に進む学生もいれば、法律、エンジニアリング、医学の道を選ぶ学生もいるし、大企業で働く学生や、自分で事業を始める学生もいる。

 大学という組織の特筆すべき点としては、地域コミュニティで果たす役割が大きいことがある。州政府や自治体政府、近隣のほかの大学、地元の企業と手を組んで、多様な研究・教育活動に従事しているのだ。

 大学は、このような数々の強みを持ち、それらをうまく連携させる能力が(潜在的に)あるため、学習とイノベーションを推進するエコシステムのハブとして機能することができる。

 欧州大学協会が2019年に発表した報告書はこう指摘している。「企業と政府は、『点と点をつなぐ』役割を担うことに関して大学とその構成員を理想的な存在と見なしている。大学関係者は、商業的な利害と短期的な目標に影響されず、公正な姿勢で、好奇心に突き動かされて、長期的視点をもって行動するからだ」

 しかし、「点と点」は自然につながるわけではない。ただ単に多様性に富んだパートナーを集めてブレインストーミングを実行させるだけでは十分でないのだ。アイデアを設計図から市場へと飛び立たせるためには、慎重にコネクションや関係性を選択し、管理する必要がある。