LGBTQ+の権利を守ることは、人材戦略の成功に直結する
Yulia Naumenko/Getty Images
サマリー:エクイティ(公平性)とインクルージョン(包摂)に関する状況は、一進一退だ。2000年から2020年にかけて、LGBTQ+の権利は大きく進展したが、現在これらは危機に瀕している。中東やアフリカの多くの国々では同性愛が... もっと見る依然として犯罪とされ、米国では反LGBTQ+法案の提出が記録的な数に上っている。こうした状況を受けて筆者らは、LGBTQ+の権利を守るために従業員が支援を求めるべき対象は、グローバル企業であると主張する。 閉じる

エクイティとインクルージョンの浸透は一進一退

 エクイティ(公平性)とインクルージョン(包摂)に関して、少しずつ進歩することはめったにない。LGBTQ+の権利は、その典型例である。

 2000年から2020年までの20年間で、LGBTQ+の権利は著しく前進した。職場や個人生活における差別とハラスメントを減らすために、ゲイやクィア、トランスジェンダーの人々はこの期間に多くの重要な権利を求めて戦い、そして勝ち取った。職場での平等な待遇、同性婚、子どもを養育する自由、性的少数者であることを公言して軍で勤務する権利などは、ほんの数例だ。この進歩的な流れが最高潮に達したのが、2020年の米国連邦最高裁がLGBTQ+の職場差別は違法と判断した、ボストック対クレイトン郡判決だった。この判決によって、1964年の公民権法が性的指向や性自認に基づく差別からの保護にまで拡大されたのである。

 しかしながら、胸の痛むニュースがある。現在、これらの新しく獲得された権利と自由の多くが危機にさらされているのだ。

 世界では、多くの国々(大半は中東とアフリカ)がいまも同性愛行為を犯罪と見なし、LGBTQ+の人々を容赦なく抑圧している。さらに、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国で始まった経済成長と貿易政策を中心とした国際的連合組織BRICs(注:2011年に南アフリカが加わる)は2024年1月、LGBTQ+の権利に強く反対する5カ国(イラン、サウジアラビア、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦)の加盟を認めた。加盟を申請したもう1カ国はアルゼンチンであり(注:2023年末に一転して不参加を表明)、新大統領ハビエル・ミレイの下で、同じような抑圧的方向へと転じつつある。

 アルゼンチンは長年、性的少数者に関する領域でリーダーと見なされていたにもかかわらず(中南米で最初にノンバイナリーの身分証明書を導入)、いまや後退してしまった。ミレイ政権の新任の外務・通商・宗務大臣であるディアナ・モンディーノは、同性婚について質問された際、こう答えた。「風呂に入らずシラミまみれになるほうがよいというなら、それはあなたの自由です。でも、あなたにシラミがいるのを嫌がる人がいても、文句を言わないでください」。この発言は、現在のアルゼンチンの最上層部の空気をよく表している。

 米国内に目を転じると、新任の下院議長マイク・ジョンソンは反同性愛の急先鋒であり、共和党内の極右勢力に対して、連邦議会で同性愛者の権利に関する法律を否決するよう強く働きかけている。州レベルでは、まだ29の州で性的指向に基づく職業差別を禁じる法律が存在せず、33の州では以前から疑問視されている有害なコンバージョンセラピー(注:個人の性的指向の変更を促そうとする転向療法)の実施がいまだに違法化されていない。

 最近の立法措置も脅威を感じさせる。2023年、全米の州議会で合計510件という記録的な数の反LGBTQ+法案が提出された。この数は2022年に提出された同様の法案の3倍に上る。そのうち84件が成立した。これは全米で提出された法案の16%に当たる。「深刻なのは法案の数だけではありません。内容がより極端になっているのです」と、アメリカ自由人権協会(ACLU)のコミュニケーション・ストラテジストであるジリアン・ブランステッターは、2023年4月のCNNのインタビューで指摘した。

 本稿の筆者の一人、シアーズがCEOを務めるアウト・リーダーシップのLGBTQ+ビジネス・クライメット・インデックス(景況感指数)は、2018年から毎年、22のデータポイントで州レベルのインクルーシブネス(包摂性)を測定し、そのスコアに基づいて各州をランク付けしている。2023年には、調査を開始してから初めて、州のLGBTQ+のインクルーシブネスの全国平均が1.16%低下した。