企業が従業員の「緊急時に備えた貯蓄」を支援する意義
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サマリー:格差、公衆衛生上の危機、気候問題などといった問題に対処するのは、政府や社会的企業の仕事だと思うかもしれない。しかし、一般企業にも大きな違いをもたらせる可能性がある。その一つが、従業員の緊急時に備えた貯... もっと見る蓄プログラムを構築し、サポートすることだ。本稿では、これらの問題に取り組んだ、筆者らの非営利組織と資産運用会社ブラックロックのプロジェクトを紹介する。 閉じる

従業員の緊急資金の貯蓄プログラムを構築する重要性

 格差、公衆衛生上の危機、気候問題など全世界的な問題に対処するのは、政府や社会的企業の仕事だと思うかもしれないが、一般企業でも状況を大きく変えられる余地がある。米PR会社エデルマンが最近、14カ国で行った調査によると、企業がリソースを投じれば、健康や格差、気候変動といった問題にポジティブな影響をもたらせると答えた人は70%を超えた。また、企業は「従来の流れを変える」インパクトをもたらせると確信する人は、最大で30%に達した。

 この見解は正しい、と我々は考えている。そして、その証拠となるケーススタディを持っている。資産運用大手ブラックロックが、万人に経済安全保障をもたらすことを目指す筆者らの非営利組織コモンウェルスと組んだプロジェクトがそうだ。これは、米国の家庭の経済的な不安定というシステム的な問題に対処するために、給与体系に貯蓄計画を組み込むもので、我々は全米最大の給与・福利厚生請負業者や、雇用主、確定拠出年金記録業者など複数のセクターが協力する条件を整えた。ポイントは、よくある退職年金に組み込まれる貯蓄プログラムとしてではなく、緊急時に使うための貯蓄プログラムにしたことだ。

 その結果は、慎重な計画立案とパートナーシップの構築、そして言わば「配管作業」をすれば、企業も蔓延する社会問題に対処できることを示していた。配管作業などと聞くと、ひどく地味な仕事に聞こえるかもしれないが、細かなインフラを整備することは、システム改革というパズルにおける重要な要素だ。我々が手掛けたケースでは、雇用主は従業員へのアクセスがあり、金融機関には貯蓄商品があるが、これまでとは異なる新しいことをするために、給与処理システムという形の配管が不可欠だった。

 このことを念頭に置くと、システム的な問題に対処するうえでの新しい道筋が見えてくる。まずは、お馴染みのプレーブックからスタートする。つまり、重要な課題を特定し、野心と創造性を駆使して、各組織の資産を活用する長期的な戦略を取る。では、どこが新しい部分なのか。それはコラボレーションと配管作業にある。

 我々の組織は、すでに大手企業数十社と協力して、数百万世帯が計20億ドルの緊急資金を貯蓄するのを可能にしてきた。このアプローチと考え方は、米国の労働者のほぼ半数を雇用する数百万の中小企業にも適用できると、我々は考えている。

課題:米国人は緊急時に備えた蓄えが必要だ

 緊急事態は珍しいことではない。だが、米国のほとんどの家庭は、経済的にそれに対処できない。米国人の10人に4人は、予期せず400ドルの出費が必要になった時、借金をするか資産を売らなければ、これをまかなうことができない。この層は、予想外の出費が2000ドルになると、いかなる手段をもってしてもまかなうことができない。この経済的脆弱性は、短期的な貯蓄がほとんどない、またはまったくない低~中所得層や収入が不安定な人たちに最も大きなダメージをもたらす。このグループは住宅ローンの返済を怠ったり、医療費を払えなかったり、複数の債務を抱えていたりする可能性がはるかに高く、老後に備えた貯蓄ができる可能性が低い。その結果は悲惨なものになりかねない。