秘密保持契約は、内部告発の権利まで制限できるのか
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サマリー:秘密保持契約(NDA)は、従業員が企業秘密を口外して会社が損害を受けることがないように広く使われているが、その中には不正行為の内部告発を禁止する条項が含まれることがある。従業員がこのようなNDAに署名してし... もっと見るまった場合、法的な助言を求めることが重要だ。特に米国では、労働省や証券取引委員会(SEC)などへの不正通報を禁じるNDAは、法的に問題がある可能性が高い。本稿では、制限的なNDAに署名をしたとしても、行政機関に告発する権利を失うことはないと解説する。 閉じる

内部告発を禁止するNDAに署名してしまった場合、どうすべきか

 秘密保持契約(NDA)は、ビジネスの世界で広く浸透している。これは、従業員が企業秘密や機密情報を口外したり、第三者に企業を批判する発言をしたりすることによって会社が損害を受けることがないよう、従業員の行動を制限するものだ。表面上の目的は、機密情報を保護することだが、濫用すれば従業員を萎縮させ、黙らせる脅しにもなる。

 米国のNDAの中には、従業員が労働省や証券取引委員会(SEC)など政府機関に不正を通報することを違法に禁止するものもある。詐欺、インサイダー取引、相場操縦などの不公正取引は、企業が従業員による通報を防ごうとする最も一般的な不正である。実際、過去1年間で、フォーチュン500(JPモルガン・チェース、DEショー、CBREなど)が、そうした不正行為で告訴されている。

 もしあなたがこうした厄介な状況に陥ったら、つまり不公正取引の内部告発を禁止するNDAに署名してしまった場合、どうすればよいのだろうか。

 筆者は、法律事務所コーン・コーン&コラピントの設立パートナー、および内部告発者保護団体National Whistleblower Centerの理事長であり、サーべンス・オクスリー(SOX)法(内部統制・監査法)、ドッド=フランク法(金融規制改革法)、AML(マネーローンダリング対策)、Whistleblower Protection Enhancement Act(内部告発者保護強化法)、IRS Whistleblower Program(内国歳入庁内部告発制度)など、多くの関連法規の起草に関するアドバイザーとして、このような状況に直面したクライアントの代理人を定期的に務めている。

 以下は、筆者がクライアントと共有する情報であり、自身の権利と選択肢について知っておくべきことである。

1. 制限的なNDAが違法である場合とその理由を知る

 企業には機密情報を保護する権利があるが、法執行機関や規制当局に犯罪を通報する従業員の権利を妨害することはできない。従業員が内部告発する権利を制限するNDAは強制力がなく、それ自体が違法であることも多い。