AIを楽観視していた経済学者の認識が変わり始めている理由
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サマリー:AI(人工知能)は私たちの仕事を奪うのか。長い間、経済学者たちは楽観的であり、新しいテクノロジーの登場が大量失業を引き起こすことはないと考えていた。しかし、世界の多くで所得格差が広がるにつれて、経済学者... もっと見るは理論を見直し始めている。本稿では、新しいテクノロジーの登場に対するこれまでの経済学における議論をもとに、AIが私たちの生活に与える影響について考察していく。 閉じる

AIの登場が働き手に及ぼす影響

 AI(人工知能)の登場によって膨大な数の人たちが職を失うのは、時間の問題なのだろうか。ほとんどの経済学者によれば、この問いの答えはノーだ。

 テクノロジーが人々から恒久的に職を奪うのだとすれば、これまで何世紀にもわたって次々と新しいテクノロジーが登場し続けたにもかかわらず、いまもまだ多くの雇用が存在していることは理屈に合わない、というわけだ。経済学者たちに言わせれば、新しいテクノロジーは経済の生産性を向上させ、働き手が新しい業種に移る道を開く。農業から工業への移行は、その一つの例だといわれる。

 こうしたことを理由に、経済学者たちは長い間、テクノロジーの変化が大混乱を生み出すことがあったとしても、それは常に「無害であるか好ましいと言える範囲内の代物だ」という共通認識を抱いてきた。

 しかし、新しいAIモデルやツールが毎週のようにリリースされている今日、そのようなコンセンサスが崩れ始めている。デジタルテクノロジーが米国やそのほかの多くの国で不平等を拡大させる一因になっているというエビデンスが続々と登場しているのだ。

 コンピュータはたしかに知識労働者の生産性を高めたが、その一方で、事務員や秘書など、「中程度の賃金」の働き手への需要を減らした。そうした状況を受けて、一部の経済学者は、テクノロジー、とりわけ自動化の技術が労働市場に及ぼす影響についてモデルを修正し始めている。