脱成長論が21世紀の競争に勝ち残るカギとなる理由
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サマリー:ビジネスリーダーたちは、「経済成長と温室効果ガスの排出増加は不可分の関係」という歴史的事実に基づき、持続可能な未来に向けた考え方を修正する必要がある。本稿では、持続可能な成長に関する3つの神話を紹介し... もっと見るたうえで、「脱成長」を目指すことで環境・社会的危機に対応し、地球の限界を超えない持続可能な経済モデルを構築する方法について考える。 閉じる

経済成長と温室効果ガスの排出増加は不可分の関係

 2023年5月、ブリュッセルに置かれた欧州議会で「ビヨンドグロース会議」(Beyond Growth)が開催された。政府首脳や学者が顔を揃え、議題は、現行の経済システムの変更が急務であることだった。その会議の総括として、次のようなマニフェストが発表された。「私たちの世界は、永続的な経済拡大(成長)と資本蓄積を中心とするグローバル資本主義システムによって、環境・社会的危機に直面している。私たちの経済的拡大への執着は、プラネタリーバウンダリー(地球の限界)の有限性と対立している」

「何が何でも成長する」いまの経済モデルから脱却することが、人類にとって最善の道かもしれないというマニフェストの考え方が人々の注意を集めた。ビジネス界のリーダーや投資家をはじめとする一部の人々にとって、「脱成長」(この考え方はそう命名された)という概念は受け入れがたい。なぜなら、経済的拡大は人間の繁栄と自由にとって不可欠であると多くの人が信じているからだ。生態経済学者のティム・ジャクソンは、彼らの心情を端的にこう言い表している。「成長を疑問視するのは、狂人か理想主義者か革命家のすることだと考えている」

 しかし、もし企業が21世紀の競争に勝ち残りたいのであれば、このような冷ややかな反応は、脱成長論の重要な要素を見落としている。

 脱成長論の核心は、経済成長と温室効果ガスの排出量が不可分の関係にあるという歴史的事実にある。この関係を信じようとしない「グリーン成長」「グリーンイノベーション」、そして期待される「エネルギー転換」のような現代のビジネス界のトレンドは、規制なき成長かつ持続可能性という幻の目標を推進している。成長の根本的な課題を現実的に捉えるためには、文化的な思い込みを捨て、持続不可能なビジネスモデルを変えていかなければならない。

持続可能な成長に関する神話

 持続可能な成長に対するビジネス界の見方のほとんどは、希望的観測を反映するいくつかの神話に基づいており、気候変動の圧力が増す中で、政府、投資家、消費者にとってますます重要となる今日の世界的な問題の根源に目が向いていない。