変革ではなく、安定性の管理が従業員の生産性を高める
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サマリー:今日の職場において、変化や変革は避けられないものと想定されており、それをどう管理し、スムーズに進めるかといった方法やプロセス、テクノロジー、コミュニケーションに注目が集まりがちだ。もちろん変化には必要... もっと見るなものもある。しかし、すべてが必要なわけではない。変化をどう管理するかを考える前に、人々が生産性を発揮するために必要な職場での安定性を重要視すべきだ。本稿では、従業員が最高の仕事を提供できるような環境をサポートする方法から得た知識に基づき、筆者が「スタビリティマネジメント」(安定性管理、安定経営)と呼ぶものの実践法を解説する。 閉じる

ただ変化を起こすのではなく、生産性が高まる条件を明確にせよ

 職場で何らかの変化を告げる、よくある通知を受け取ったと想像してみてほしい。たとえば、今後数カ月の間に組織の再編成が実施されることを予告するメールなどだ。明るく楽観的な言葉で、その改革や再編成によってもたらされる多くの機会について、前向きな言葉で語られている。

 しかし、このような文書の心理的影響は、それほどプラスのものではない。最初の心理的効果は、不安定性の提示だ。具体的には何が起こるのだろう、とあなたはいぶかるだろう。それと相まって、これから起こることは自分ではコントロールできないという主体性の低下も起こる。再編成が進む通常数カ月の間に、チームは解体され、配置換えが行われる。あなたはこれによって帰属意識や、ソーシャルサポートネットワークを断たれる。人の異動に伴い、オフィスの日常における「登場人物(キャスト)たち」も変わり、日常を支える日課や儀式も乱される。また、新しい組織構造が出現しても、自分の仕事がどこに位置づけられるのかが必ずしも一目瞭然ではなく、自分の仕事に対する価値感が低下する。

 このような移行の一つひとつが、従業員を働きにくくする。その仕組みは明らかだ。つまり、人は自分の環境が予測可能であり、身の回りのことをある程度コントロールできる感覚があり、安定した人間関係に属し、場所や儀式とのつながりを感じられ、自分の努力の意味がすぐに理解できる時に、最高の仕事ができるのだ。この研究の観点から見ると、絶え間ない変化はパフォーマンスの媒介者ではなく、敵として浮かび上がってくる。

 しかし人は通常、変化をそう考えてはいない。変化は(必然的に)よいことであり、ディスラプションは(必然的に)よりよい未来への通り道であり、新戦略や新体制への抵抗は、克服すべき「失敗」であると考え、職場で人が何を必要としているかを示すサインだとは考えなくなっている。その結果、今日、仕事における変化について考える時、それを必然として当たり前に受け入れ、それをどのように管理するか、つまり、変化をより円滑に進めるためにはどのような方法、プロセス、テクノロジー、コミュニケーションを導入する必要があるかに注意を向けがちである。

 もちろん、必要な変化もあるし、避けられない変化もある。しかし、すべての変化ではない。予測可能性や主体性、帰属意識、場所、意味などに関する科学的文献が示唆するのは、変化を管理すること(チェンジマネジメント)を考える前に、生産性を高めるために従業員が職場で必要としている条件を考えるべきだということだ。組織内に変化を起こそうと躍起になるべきではなく、外部の出来事によって強いられる場合には、変化を警戒すべきなのである。そして、安定という美徳に対する認識を新たにし、筆者が「スタビリティマネジメント」(安定性管理、安定経営)と呼ぶものの実践方法について理解を深めるべきだ。

 はっきり言っておくが、今日、スタビリティマネジメントなどというものは存在しない。しかし、心理学的エビデンスに導かれ、筆者が発見した、従業員が最高の仕事を提供できるような環境をサポートする実践法から得た知識に基づき、その輪郭を示そうと思う。

スタビリティマネジメントとは何か

 チェンジマネジメントが、ある特定の変革が提起された時にのみ導入されるのとは対照的に、スタビリティマネジメントは、スイッチを自由にオンオフできない人間の基本的な心理的欲求に対処するものである。そのため、スタビリティマネジメントは継続して常にオンになっている組織の規律である必要がある。それは、環境を管理する方法であって、その時その時を乗り切る方法ではない。