企業はリモートで働く従業員のリスキリングを加速せよ
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サマリー:現在、多くの人々が生成AIが導入されるペースと規模に驚かされている。歴史とマクロ経済の観点からすれば、これは仕事が異例の速さで変わりゆくことを意味する可能性がある。特にリモートワーカーはその影響を受けや... もっと見るすく、大規模なリスキリングが必要になる可能性がある。本稿では、「通常の破壊的変化」のシナリオを揺るがす3つの大きな要因を解説し、働き手と企業に求められる対応を考える。 閉じる

リモートワーカーは劇的な仕事の変化に直面する

 自動化については、整然としたストーリーがある。自動化の影響を最初に痛感した人々は、製造業と手仕事の従事者であった。機械化された織機の登場によって、自営業の織り手は工場で働くことを余儀なくされた。フォード・モーターが組立ラインを導入した後、熟練の機械工とエンジニアは、決まり切った手順による作業を覚える必要に迫られた。

 やがて、オフィスのサポートスタッフも似た運命をたどった。ネットワーク化されたPCが登場した時、事務や管理・間接業務の従事者は、人とやり取りをする仕事が、ソフトウェアのフォームに記入したり、チェックボックスにチェックを入れたりする作業に変わる経験をした。これらの人々の大半は低賃金で、習得したスキルも少なく、多様性、人的つながり、尊厳に欠ける待遇を受けた。

 一方、知識労働者の大半は、ほぼ反対の経験をしてきた。自動化は、より挑戦的かつ創造的でスキルアップにつながる仕事の到来を告げ、収入とステータスの向上をもたらした。そして誰もが衝撃を受けたものの、パンデミックと新たなリモートワークの世界は、知識労働者にさらなる自律性とバランスの取れた生活をもたらした。

 これは単なる事例ではない。労働経済学、心理学や社会学といった分野での50年以上にわたる研究で、ホワイトカラー労働者は自動化の恩恵をより多く受ける立場にいることが示されている。MBAを持つシニアマネジャーは、高付加価値を伴う非定型的で判断中心の業務を行うことが多く、定型的な作業を自動化する技術から不均衡に大きな恩恵を受ける。実際に研究者は、この「富める者に富が集中する」現象を、「スキル偏向的技術進歩」と名付けている。

 しかし現在、ストーリーは変わりつつあるようだ。

 今後焦点となるのは、身体的存在である。完全リモートで働いている人や働ける人の業務の多くは、まもなく大幅に自動化されるかもしれない。一方、職場に出勤し、体を使って成果を出す必要がある労働者は、より安全な立場にいる。したがって、一部のリモートワーカーは職を失うことになるが、何百万人ものリモートワーカーは、間もなく大々的な仕事の「変化」を経験し、結果的に大きなリスキリングの課題に直面するだろう。

 その理由を理解するにはまず、生成AIへの「エクスポージャー」(露出)に関する新たな予測モデルについて考える必要がある。最近の研究によれば、生成AIへの露出度がより高い職ほど、生産性が向上する可能性が高い(編注:同研究における露出〈exposure〉の定義は、大規模言語モデルを活用することで人間が特定の作業に要する時間が少なくとも50%削減されるかどうかを測る指標)。

 研究に参加したペンシルバニア大学ウォートンスクール助教授のダニエル・ロックとオープンAIの共著者らによると、たとえばカスタマーサービス担当者が生成AIを(未改良でハルシネーションを起こす状態のものでも)習得した場合、全業務の半分において生産性が50%高まる可能性があるという。ブロックチェーンエンジニア、ライターや数学者はどうだろうか。この定義に従えば、露出度は非常に高い。