経営者の熱意が薄れつつある、ステークホルダー資本主義の行方
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サマリー:2019年、米国の経済団体であるビジネス・ラウンドテーブル(BRT)を構成する米国の大企業経営者が、ステークホルダー資本主義への転換を宣言した。だが最近、とりわけ米国では、たとえば気候変動やDEIなど、多くのス... もっと見るテークホルダーのサステナビリティに関連した重点課題に対する熱意が一時期ほど見られなくなった。本稿では、BRTの声明後にいったい何が起きたのか、そして私たちはどこへ向かっているかについて振り返る。 閉じる

気候変動やDEIへの熱意が薄れていないか

 表面的には、それは大事件だった。米国の経済団体であるビジネス・ラウンドテーブル(BRT)を構成する米国の大企業経営者181人が、2019年に「企業のパーパス」を見直す声明を発表した。企業は長年、短期的な利益と投資家へのリターンを増やすことばかりに執着してきたが、今後は5つのステークホルダー(顧客、従業員、サプライヤー、環境を含む地域社会、そして株主)の利益を考えると約束したのだ。

 これはビジネス界の大物たちが、(1970年代に株主至上主義を唱えた経済学者)ミルトン・フリードマンは間違っていた、と暗に宣言したともいえる。BRTの声明は、ステークホルダー資本主義への転換として、そして企業の社会的役割にあらためて注目するものとして、歓迎された。

 結果的には、タイミングもぴったりだった。その数カ月後には、2020年というひどい年がやってきたのだから。コロナ禍により、企業はステークホルダーに注目せざるをえなくなり、ジョージ・フロイドの殺害(黒人男性のフロイドが警察の過剰な暴力により死亡した事件)により、人種平等への誓いを新たにすることになった。

 また、BRTの経営者たちは正しかった。株主のためだけを考えた経営は、企業とは顧客を喜ばせ、有能な人材を引き寄せて維持し、地域社会やサプライヤーと協力して、価値ある事業を生み出さなければならないという基本的な現実を見落としている。企業の長期的なレジリエンス(再起力)と生き残りは、持続可能な形で、ステークホルダーと社会のためになるか否かで決まる。地球が傷つき、人々が不健康であれば、企業は繁栄できない。

 BRTの会員企業は、すでにステークホルダー資本主義に傾いていた可能性があるが、あらためてそれを明言することは重要であり、進歩を促すことになった。だが最近、とりわけ米国では、たとえば気候変動やDEI(ダイバーシティ、エクイティ、インクルージョン)など、多くのステークホルダーのサステナビリティに関連した重点課題に対する熱意が一時期ほど見られなくなった。BRTの声明後にいったい何が起きたのか、そして私たちはどこへ向かっているかを、ここで振り返ってみる価値はあるはずだ。

進展はあった

 たとえ熱意が薄れていても、いまやサステナビリティは企業の重要なアジェンダになっており、その取り組みは続いている。