工場の完全自動化を実現するために何から着手すべきか
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サマリー:製造業では、完全自動化工場の実現を模索してきたが、過去の試みは成功していない。しかし、成熟経済国において製造業生産高の成長が停滞していることから、生産性向上のために自動化は不可欠である。筆者らの研究と... もっと見る実地体験によると、技術の進展により完全自動化工場の実現に近づいているのも事実だ。ロボットの性能向上や生成AIの導入が進んだことで、参入障壁も低下しつつある。本稿では、製造業者が完全自動化をどのような点に気を配りながら進めていくべきかを解説する。 閉じる

完全自動化工場の実現を諦めてはならない

 過去数十年間、製造部門は完全自動化工場の実現を待望してきた。完全自動化工場は、ハイテクロボットやインテリジェントマシン、そしてセンサーのネットワークによってシームレスに組織化した生産活動を行い、蔓延する労働力不足に対処するとともに、操業コストを大幅に削減できるとされている。人間の介入をほとんど必要とせず、理論的には真っ暗闇の中で稼働できることから「消灯工場」とも呼ばれる。

 今日までに、完全自動化工場をつくる試みはいくつかあった。有名なところでは、アディダスが米国およびドイツに設立したスピードファクトリーや、スタンレー・ブラック&デッカーがテキサスに設置したクラフトマンの工具工場、そしてテスラの取り組みがある。だが、テスラのCEOであるイーロン・マスクが「過度の自動化は誤りだった」と述懐したように、これらの取り組みは、完全自動化工場の幅広い実現可能性について疑念を投げかける結果になった。かくして業界の一部の専門家は、完全自動化工場の実現を断念するよう勧めている。

 筆者らは、断念するのは誤りだと考える。2018年以降、就業1時間当たりの製造業生産高の成長が、米国(-0.4%)やドイツ(1%)などの成熟経済国においてほぼ停滞している現状から、生産性向上のために自動化が不可欠であることは自明である。

 製造業者にとって朗報もある。筆者らの研究と実地体験によれば、いくつかの著しい変化が進んでいるのである。初期の試みの妨げとなっていた実装の参入障壁は、今後数年間で急速に崩れていくだろう。ロボットの性能、柔軟性、費用対効果は向上し、身体化したエージェントを通して、生成AIの能力はすでに工場環境に導入され始めている。製造業者はこの避けられない破壊的変化に備えよう。さもないと、後れを取ることになるだろう。

既存の工場を完全自動化工場に変革する

 世界的には、完全自動化工場が長期的に存続可能であることを証明するイノベーションが、いくつか出現している。たとえば、筆者らのクライアントの一つで欧州を拠点とする自動車部品メーカーは、既存の設備を完全自動操業に変革し、人間は計画と監督、そしてメンテナンスを行うという大胆な決断をした。

 同社は、高コスト国での操業を採算が合うものにする一方で、2日以内の顧客対応を維持して、コスト競争力を実現することを目指した。その結果、直接労働を100%削減して、業界を苦しめている人材不足の問題に効果的に対処し、工場の利払・税引・減価償却前利益(EBITDA)は8%向上した。現在、この取り組みは世界各地の複数の高コスト拠点に拡大されている。

 この変革を始めるに当たって、筆者らのクライアントは完全自動化を行う製造業者が直面する、財政面および技術面の最もよくある問題にあらかじめ対処した。これらの問題はあらゆるタイプの工場運営に見られるものだ。

予測可能な工程

 工場では、ほとんどの工程は反復的なタスクなので、ロボットに行わせることは技術的に可能であり利益になる。たとえば、自動搬送車はあらかじめ定められた経路で作業現場を難なく運行できる。ただし、ロボットを設置してメンテナンスするためには、高度なスキルの労働力が必要であり、全体的な労働コスト削減は限定的になる。