何もうまくいかない時でもマネジャーの仕事を楽しむ方法
Illustration by Benedetta Vialli
サマリー:仕事や生活があなたの重荷となっている時、職場で喜びを取り戻すのは難しいかもしれない。研究によると、職場に喜びや希望、楽観主義を取り入れることは、バーンアウト(燃え尽き症候群)を防ぎ、ウェルビーイングを... もっと見る改善する効果がある。本稿では、つらい日々が続く中でも職場で喜びを再び見つけるための4つの戦略を紹介する。 閉じる

チームやあなた自身バーンアウトに向かっている時

 パンデミックが始まって数カ月経った頃、グローバルチームの新しいリーダーだった筆者は、いつも気が滅入っていた。毎日、一度も会ったことのない同僚のために次々と起きる問題に対応し、まだ見たことのないオフィスのために戦略を立てていた。増えていく一方の仕事量と対人関係の緊張によって、私たちは押し潰されそうだった。また対面での交流がないので、つらい時期の支えになるチームワークを渇望していた。どこを見ても先行き不透明で不安が蔓延し、心を奮い立たせてくれるものを見つけることなど不可能に思えた。

 ところが、ある日の午後、新しいマーケティングプロジェクトのプレゼンテーションの場で、状況が一変した。世界各地のチームを見ているうちに、メンバー一人ひとりの活力や創造性、才能に鼓舞されたのだ。創造的コンセプトと覚えやすいキャッチフレーズを披露するいつものバーチャルミーティングとは、明らかに違っていた。メンバーの顔に浮かぶ喜びと誇りを目の当たりにし、レコグニション(功績や活躍を認め合い、称賛すること)のたびに皆の意気が揚がるのを感じた。その瞬間から筆者は、終わりの見えない仕事の憂鬱ではなく、体験を共有する喜びや創造性、レジリエンスに注目するようになった。

 疲労の蔓延とつながりの欠如が仕事に有害な影響を及ぼし、人間関係を緊張させていたことがやがて明らかになった。こうしたストレス要因が、筆者とチームの面々から喜びや感動をも奪っていた。バーンアウト(燃え尽き症候群)まで秒読みの段階に入っていたのである。

 米国の科学的心理学会の研究によれば、慢性的な職場のストレスは感情的ウェルビーイングに影響を及ぼすだけではなく、重大な身体的健康の問題や認知障害につながることがある。しかし、喜びや希望、楽観主義を促進する戦略を取り入れるならば、その影響を緩和できる。米国医療の質改善研究所(IHI)によると、職場での喜びの増進に力を入れると、バーンアウトが緩和されるうえ、従業員満足度が向上し、ストレスが軽減され、全般的なウェルビーイングが強化される。結果的にバーンアウト率が下がり、エンゲージメントのレベルが向上する。

 満足感やつながり、パーパスを妨げるものに先手を打って対処するならば、職場を喜びと楽観主義に満ちた場所へとつくり変えることができる。まず、あなたが自分を大切にし、そのための行動を取ることができるようになれば、さらに能力を発揮し、しっかりと他者にも効果的かつ真摯に向き合えるようになる。本稿では、リーダーが勤務時間の中で、喜びや希望、楽観主義を呼び起こすための4つの戦略を紹介しよう。

1. あなたにとっての理由を見つける

 自分自身とつながるためにまず大切にすべきことは、あなたのすべての行動の背後にある原動力、つまりあなたを動かす理由である。

「生きがい」という日本の概念がある。おおまかに訳すなら「存在理由」、あるいは人生の真の目的、満足感、達成感を指す。この概念は、自分の情熱、才能、価値観を調和させ、さらに世界のニーズに応えることで、意義や満足感を見出せることを示唆する。カナダのジャズ歌手でHow to Ikigai(未訳)の著者のティム・タマシロは、ポッドキャスト「イン・ジ・アリーナ」のある回で、生きがいについて「持って生まれた才能で、ごく自然にほかの人々と分かち合い、人々の人生を明るくし豊かにするもの」だと説明している。

 あなた自身の生きがいを見つけ出そう。そのためには、ともにスペインの著作家であるエクトル・ガルシアとフランセスク・ミラージェスが共著Ikigai: The Japanese Secret to a Long and Happy Life(未訳)で挙げている以下の質問にどう答えるか、よく考えてみるとよい。