あなたの会社のボーナスは、狙い通り機能しているか
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サマリー:報酬のようなインセンティブは、目的とするプロセスを促進するのか、それとも阻害する可能性があるのか。筆者らは小売企業を対象に2つのフィールド実験を行い、金銭的インセンティブが想定とは逆の効果をもたらすこ... もっと見るとを実証した。つまり、効果を期待して支給した金銭的インセンティブが裏目に出て、意図しないコストになってしまったのだ。それは、インセンティブが発している「期待される行動」のシグナル(暗黙のメッセージ)によるところが大きいと考えられる。 閉じる

金銭的インセンティブが裏目に出てしまう場合

 30年以上前、作家で講師のアルフィー・コーンは、物議を醸し、かつよく引用もされるHBRの論稿の中で、「報酬は、それによって促進しようとしているプロセスそのものを阻害する」と主張した。しかし最近まで、科学的研究でこのような「逆効果」を証明しているものは、ほぼすべて実験室実験か、企業以外のフィールド実験に限られていた。そのため、企業でこのようなことが現実にあるのかと疑問に思う人もいるに違いない。筆者らの新たな研究では、小売企業での2つの大規模なフィールド実験を通して、こうした逆効果が実際に生じることを実証した。

 一方の実験は、皆勤手当の支給が欠勤日数の「増加」につながることを明確に示した。もう一方の実験では、業績検討会によってもたらされる付加価値が、報奨金を組み合わせた場合に帳消しになることがわかった。どちらのケースでも、効果を期待して支給した金銭的インセンティブが裏目に出て、意図しないコストになってしまった。それは、インセンティブが発している「期待される行動」のシグナル(暗黙のメッセージ)によるところが大きい。

 実際に何が起こっているのか、両実験を順番に見ていこう。

シグナルとしての報奨金

 新規採用者(ドイツでは実地研修を受けている職業訓練生が多い)の欠勤率への懸念を受けて、筆者らは研究室に所属しているヤコブ・アルフィティアンとともに、ドイツのある大手小売チェーンの232店舗でフィールド実験を行った。

 筆者らは、各店舗を、皆勤手当を支給するコントロールグループと、皆勤者に特別休暇を付与するグループとに無作為に振り分けた。重要なこととして、新人たちには、他方のグループのことも、研究者が関与していることも知らせていないため、自然な環境が保たれた。

 意外にも、欠勤「率」は、どちらのインセンティブによっても低下しなかった。興味深いことに、一般的な予想に反して、皆勤手当の支給は欠勤「日数」の大幅な増加につながった。この予想外の結果を解明するため、筆者らは金銭的インセンティブが裏目に出る原因となる行動メカニズムを探った。すると、調査データから、驚くほど明確な答えが得られた。金銭的インセンティブを提示されたグループの従業員は、欠勤に対する見方を変え始めたのである。

 たとえば、病気でない時(つまり健康な時)には出勤しなければならないという義務感が著しく薄れ、健康な状態でも出勤せず、家にいることに罪悪感をおぼえなくなったと、多くの被検者が回答している。ここからわかるのは、皆勤手当によって、皆勤することが「当たり前」のことではないということ、つまり皆勤を当初から期待していないというシグナルを新人たちに送ったのではないか。そのため、健康でも出勤せず、家にいてかまわない、と思うようになったと考えられる。

 このケースは、企業が採用したインセンティブ制度に内在しうる、従業員への強力なシグナリングの作用を明確に示している。シグナリング効果の重要性については、経済学者のマイケル・スペンスが博士論文で初めて説明し、さまざまな分野にまたがるその広範な意味合いから、のちにノーベル経済学賞を受賞した。その説明によれば、我々の選択は、我々自身の能力、信念、意図に関する情報に通じるシグナリング効果によって、直接的な影響(能力、信念、意図)以上にシグナルそのものが結果に影響を与える。したがって我々は、相手に与える印象や、みずからの評判(レピュテーション)をよくするために、シグナルとなる特定の行動を取るように動機づけられる。そこで、筆者らの次の研究につながる。