企業が卓越したオムニチャネルを実現する5つの手段
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サマリー:ラグジュアリーブランドがオムニチャネルでの販売を成功させるのは難しい。販売では高品質な顧客対応が求められるが、サービス体験が店舗や地域で異なる場合が多いためだ。しかし、こうした難題があるにもかかわらず... もっと見る、多くのブランドがチャネルにおける一貫性を戦略的目標として掲げている。本稿では、ラグジュアリーブランドが真の卓越したオムニチャネルの実現を達成するために必要な、5つの具体的な手段を紹介する。 閉じる

複数の販売チャネルで一貫性を保つために

 ラグジュアリー業界で経験を積んだエグゼクティブの誰しもが、ラグジュアリー商品を真の卓越したオムニチャネル(リアルとネットをまたぐ複数チャネル)で販売することは不可能に近い、と口を揃えるだろう。きめ細やかな人間的対応が大きく物を言うラグジュアリー小売業の性質からすると、店や地域によってサービス体験が異なる可能性が高い。ラグジュアリーブランドが複数のチャネルで商品の販売を試みると、とたんに事は複雑になり、しかも販売システムにeコマースが含まれ、あるものはブランド直営で、あるものは再販業者による運営となると、ますますややこしくなる。

 こうした難題があるにもかかわらず、ほとんどのラグジュアリーブランドは、チャネルの高度な一貫性の実現を戦略の必須事項としている。本稿は、真の卓越したオムニチャネルの実現という戦略的意思を持つラグジュアリーブランドに、その目標を首尾よく達成するための5つの具体的な手段を紹介する。その手段はけっして手軽なものではない。経営陣の強力なリーダーシップと、実施に関わるすべての関係者のたゆまぬ努力が要求される。以下が、その5つの手段である。

サードパーティチャネルを将来的に買収するタイムラインを設定する

 基本的にラグジュアリーブランドは、販売範囲の拡大や特定市場への進出のために、サードパーティチャネル(第三者の販路)に頼る必要がある。またラグジュアリーブランドは、多くのサードパーティのディーラーと何十年にもわたる関係があり、既存の販売代理店契約を終了することはけっして容易ではない。ブランドはこの点で、みずからを強く律する必要がある。

 真のオムニチャネルを実現することを決意したブランドは、サードパーティによる販売代理は永続的ではないという考え方に立つべきだ。将来的にサードパーティの販売代理店を買収する準備をしながら、自社の小売能力を高める必要がある。短くて2~3年、長ければ10~15年かかることもあるだろう。大切なのは、将来的にすべての小売業務を自社で行うまでのスケジュールが立てられていることである。

 それをやり遂げたブランドの一つが、セイコーウオッチ傘下の高級腕時計ブランド、グランドセイコーだ。海外ではサードパーティの現地販売代理店を通して商品を販売してきたグランドセイコーは、現地販売代理店を買収するために地域統括会社を段階的に設置した。2018年のグランドセイコー・コーポレーション・オブ・アメリカに始まり、2020年にグランドセイコー・ヨーロッパ、2022年にはグランドセイコー・アジア・パシフィックを設立した。地域統括会社が設立されるたびに、サードパーティの現地販売代理店に代わって、ブランド直営のブティックが店舗ネットワークに登場するようになった。この事実から、ブランドがサードパーティチャネルを次々と買収するという長期計画を持っていたことがわかる。ほとんどの買収が友好的に行われた。あるケースでは、ブランド企業と撤退する販売代理店がジョイントベンチャーで子会社を設立し(ブランドが過半数の株式を所有)、販売代理店の経済的利益を維持できるようにした。状況が許せば、撤退するチャネルの従業員を再雇用することもあった。特にベテランの従業員が顧客情報に精通し、貴重なアカウントを持っているケースがそうだった。

小売ディレクターと卸売ディレクターの職務を統合する

 一般的なラグジュアリー企業には、多くの場合、ブランドのブティックの運営を監督する小売ディレクターと、サードパーティチャネルへの販売に責任を持つ卸売ディレクターがいる。表面的には適切な分業のように見えるが、オムニチャネルの問題の原因となることも多い。

 もし営業活動に強い影響力がある2人の責任者が最優秀成績者の座をめぐって張り合っていたら、オムニチャネルは実現できない。また、たとえ2人の責任者が誠実に協力することができても、それぞれのチームが壁をつくっていれば、情報共有やブランドの顧客に良質なサービスをするための調整は妨げられる。