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困難を抱える従業員をどうサポートするか
あなたが最後に仕事で窮地に立った時のことを思い出してみてほしい。その悩みを同僚に打ち明けるとしたら、誰に話しただろうか。多くの人は直感的に、同じ経験をしたことがある人を頼りにするだろう。だが、筆者らの最近の研究(学術誌に掲載)によれば、この考えは見直したほうがよさそうだ。筆者らは計3件の研究で、米国のさまざまな業界の従業員600人以上を対象に、仕事に関する不安を誰かに打ち明けた経験や、困難に直面している同僚に対処した経験を尋ねた。その結果、同じ経験がある同僚にサポートを求めることは、かならずしも賢明ではないことがわかった。
たとえばアマンダを例に考えてみよう。彼女は中規模のニュースメディアの営業担当者だ。その仕事に就いた当初は、一瞬一瞬を楽しんでいた。しかし、半年にわたる難しい経験が続き、その職場環境にはもはや耐えられないと思うようになった。「自分が求められておらず、排除され、悪質な噂や陰謀、いじめの標的にされる場所に行かなくてはならないのは、まさに拷問だ」と、アマンダは語る。もう我慢できないと思った時、かつて仲間はずれにされた経験がある、別の部署の同僚に話をしようと考えた。「あの人なら私のことを理解して、この状況の過酷さをわかってくれると思った。疎外感を覚えながら仕事をこなすつらさを、身をもって知っているはずだから。ところが驚いたことに、相手が善意で接してくれたにもかかわらず、その同僚に話をした後、私は自分についても、現在の状況についても、さらに嫌な気分になっていた」
研究によると、困難を乗り越えた人は似た経験をしている人に対して思いやりを示すだろうと、80%以上の人が考えている。ところが、経験者は自分中心の受け答えをしがちで、苦しんでいる相手の気持ちはもっともだという確信を与えてくれる可能性が低いことがわかった。これに対して、同じようにつらい経験をしたことがない人は、(1)自分の経験を語るのではなく、いま苦しんでいる相手を中心に据えて、(2)相手特有の経験を尊重し、(3)苦しんでいる相手の現実に役立つ形で対処する可能性が高い。
仕事に伴うストレスは避けられないものであり、あらゆるレベルのリーダーが、自らの役割を認識し、従業員をよりサポートできる、思いやりのある組織を育てることが極めて重要である。思いやりと配慮に対する組織的なコミットメントは、重要なメリットがもたらす。欠勤率や離職率が下がり、従業員の仕事に対する満足度が高まり、チームのコラボレーションが改善し、組織の適応力や創造性が高まり、顧客満足度が向上するのだ。
マインドフルネスの研修やヨガのクラスを提供するだけでこの問題に対処しようとするような、いわゆる「ケアウォッシング」に留まるのではなく、以下4つの戦略を採用すべきであることを筆者らの研究は示唆している。
1. 苦しんでいる人に焦点を当てる
筆者らの調査では、私たちは問題を抱えた従業員に対応する時、自分が過去につらい経験を克服するために効果があった方法が、同じような課題を抱える人にも必ず効果があると思い込むがちだ。そのことを念頭に置いて、次に「私の似たような経験をお話ししよう」と言いたくなった時は、相手が自身の具体的な経験を話せるように促そう。たとえば、「どのような状況だったのか、もう少し話せますか」とか「非常につらい思いをしているのがわかります。もう少し詳しく教えてください」といった言い方ができるだろう
2. 相手の痛みを認める
人は、自分が経験した困難のレベルや、それを克服するためにどれほど苦労したかを過小評価しがちだ。そのため、いま苦しんでいる人を前にした時、共感が足りず、相手の経験の深刻さを認識できない。筆者らの研究によれば、相手の経験を過小評価したり、軽視したりすることが、意図せずに相手の痛みを悪化させる可能性がある。
そうではなく、リーダーは従業員の痛みを明示的に認め、価値判断をしないよう注意しよう。認めることとは、現在および過去の環境を考えると、相手がそのように考え、感じ、振る舞うのも理解できると認めることである。たとえば、「あなたがどれほど動揺しているのかはわかる。実際に起きたことを考えれば当然だ」とか、「あなたが経験したことを考えれば、そう感じているのはまったく理にかなっている」といった言い方ができるだろう。このように声をかければ、従業員は、自分は理解され、サポートされていると感じることができる。