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現在のESG評価では、企業の気候対策の全容を示せない
2023年6月、イーロン・マスクはツイッター(現「X」)への投稿で、みずからが経営する電気自動車メーカー、テスラのESG(環境、社会、ガバナンス)評価が低いことに不満を述べた。テスラのESGスコアは、シェルやエクソンモービルといった化石燃料企業をも下回っていたのである。
公正を期すために指摘しておくと、テスラが自社の製造工程における温室効果ガス排出量を減らす努力を十分に行っていなかったことは否定できない。しかし、マスクの不満表明は、温室効果ガス関連のコンプライアンスにおける既存の仕組みに足りない要素がある点を浮き彫りにした。
現状では、新興企業が行っている体系的な取り組みが十分に評価されていないのだ。たとえば、電気自動車や風力発電タービン、植物ベースの食品などをつくっているメーカーや、自社の社会的な影響力を駆使して政府の政策転換を促したり、顧客に行動変容を働きかけたりしている企業が報われる仕組みになっていない。
今日における温室効果ガス関連の基準は、企業が自社の排出量──言ってみれば、排出量の「在庫」──をどれだけ減らしたかを評価する。ここで問われるのは、自社が直接行う事業活動(「スコープ1」)と、エネルギーの調達先(「スコープ2」)、そしてバリューチェーン(「スコープ3」)における温室効果ガスの排出削減だ。
しかし、これらの在庫は、企業の最も際立った、あるいは最も勇気ある気候対策の全容を示すには不十分であることが多い。それどころか、世界がネットゼロ(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を達成するための有効なソリューションを生み出そうとする過程で、自社が計画していた排出量の上限を突破して温室効果ガスを排出してしまった場合には、罰せられることさえある。
また、この基準システムでは、在庫内のすべての排出が、より広範な気候への影響にかかわらず同じように扱われる。その結果、多くの業種は、気候対策として最も効果が期待できる領域ではなく、周辺部分の小手先の調整に焦点を当てがちである。
たとえば、空港の運営会社は、廃棄物の管理を強調する一方で、航空機のフライトで燃やされる化石燃料についてはほとんど言及しない。また、コンサルティング会社は、オフィスの電球に神経をとがらせるが、重工業分野の顧客企業に対するコンサルティングの方針については見直そうとしない。
企業が社会の気候変動対策に貢献しても、現在のESG関連の枠組みには、その成果を報告する方法が設けられていない。たしかに、企業は自社の温室効果ガス排出量を早急に減らす必要がある。しかし、それとは別に、新興企業が自社の領域内だけでなく、社会における温室効果ガス排出量を減らすために行う努力を評価し、奨励し、その成果を計測する方法があってよいはずだ。