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私心のないように見せつつ注目されるブランド戦略
2018年夏、一風変わったニュースがソーシャルメディアで広まり始めた。宅配ピザチェーンのドミノ・ピザが全米の町の道路にできたくぼみを補修し、舗装したてのアスファルトにブランドのマークを残しているという。この「ピザのために舗装します」という少しおどけた名称のキャンペーンは、車やバス、そしてピザ配達のバイクに災難をもたらす道路のくぼみという日常的な困りごとに、現実的に対処するものだった。ドミノ・ピザは、バイクがすいすい走って無傷のピザを届けるためだと、ユーモラスに説明した。
ドミノ・ピザはこのキャンペーンで、最初の8カ月だけで10億回以上のメディアインプレッション(さまざまなメディアでの表示回数)を獲得した。この快挙は、まだ十分に活用されていない新しいブランド戦略アプローチを示している。従来のマーケティングの定説において、ブランドが生き残るために何より重要なのは、アウェアネス(認知度)だった。注目を競い合うメディア環境では、ブランドは注意を引こうとして露骨な自己宣伝に走り、ますます強烈でセンセーショナルな戦術に頼る傾向がある。しかし、あからさまに注目を求める人が反発を受けるのとよく似て、ブランドのそうした戦術は、消費者から自己中心的で自己愛的であると見なされやすく、結局、嫌われてしまう。実際、従来のブランディングのアプローチが機能していないという有力な証拠がある。
大手PR企業エデルマンの調査によると、正しいことをしているとブランドを信頼する消費者は63%にすぎず、46%はブランドが気候変動などの問題に十分に取り組んでいないと答えている。それでも消費者の59%は、もしブランドが社会にとってよいことをするならば、さらにお金を出してよいと考えている。
このようにブランドは、注目を集めつつ、私心なく行動しているように見せるという難しい役割を求められている。筆者はそこから成功へとつなげる方法を解明するため、2018年から2023年までのカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルの受賞作(多くの人に拡散されたバイラルなマーケティングキャンペーンに授与される最高の賞)を150件以上、研究した。すると、そのほとんどがヒーローの成長過程をなぞり、3つの共通の特徴を持つことが明らかになった。
1. ヒーローブランドは守護者として行動する
スーパーマンやバットマンのようなフィクションのヒーローは、人々を危害や不正から守る。ブランドがこのヒーロー的特徴を体現するためには、現実の不利益に直面して、その脅威からの解放を願い、広く認識されている不正義に苦しむ人々を守る必要がある。これらの基準を満たせないと、ブランドはヒーローの地位に就く資格を失う。
欧州のスーパーマーケットチェーン、カルフールの例を考えてみよう。欧州の前時代的な法律によって、フランスの農家で生産された果物や野菜の97%が規格外野菜として違法扱いにされていた。この法律は生物多様性を脅かし、農業のコストを不必要に増やし、味のよい規格外野菜を消費者から取り上げていた。カルフールはこの法律に逆らって、フランス全土に400カ所の「闇市」を開き、規格外として違法扱いになった果物や野菜、穀物を販売したのだ。
この活動はヒーロー的なブランディングキャンペーンの3つの基準を申し分なく満たしていた。すなわち、フランス国民は規格外の食物を入手することができず、明らかに不利益を被っていた。また同国民は変化を求めており、前時代的な法律の不当性も認識していた。カルフールはこの法律がなければ世界はよりよくなることを実証してみせることによって欧州議会との戦いに打ち勝ち、やがて、この法律は廃止されたのである。世界広告研究センター(WARC)によると、このキャンペーンは3億7700万回のメディアインプレッションを獲得し、カルフールを欧州で最も好まれるスーパーマーケットへと押し上げた。
2. ヒーローブランドは私心なく行動する
マンガのヒーローは自分よりも他人のニーズを優先し、迷うことなく献身する。同様に、ヒーローブランドは私心なく行動し、その行動による利益を求めず、他人のウェルビーイングに力をそそぐ。もしブランドの取り組みの動機が自己利益にあるように見えたら、消費者に反発され、ヒーローの立場を失うリスクがある。