これからはサプライチェーンの専門知識を持つCEOが必要である
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サマリー:S&P500企業では、財務や経営戦略、あるいは実務部門を率いた経験を経た人物がCEOになることが多い。しかし最近は、サプライチェーンマネジメント(SCM)部門で高いポジションを経験した後、いきなりトップに抜擢され... もっと見るるケースがわずかながら増えている。これは、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻のような世界を揺るがす出来事が頻発し、企業がサプライチェーン問題に取り組まざるをえないからである。実際、筆者らが行った分析によると、コロナ禍ではSCM経験のあるCEOが率いる企業のほうが、そうでない企業よりも優れた業績を収めていることがわかった。 閉じる

サプライチェーンの知識を持つCEOが求められる時代

 S&P500企業のCEOは、財務や経営戦略、テクノロジーといった実務部門のリーダーを経て、企業というピラミッドの頂点に上り詰めることが多い。だが、最近は、サプライチェーンマネジメント(SCM)部門で高いポジションを経験した後、いきなりトップに抜擢されるケースがわずかながら増えている。

 デジタル化やサプライチェーンの陳腐化が話題になる中、このキャリアパスが定番ではなく、例外的であるのは驚くことではない。

 だが、最近の世界的な出来事により、いまやあらゆるCEOがサプライチェーン問題に取り組むことを余儀なくされている。コロナ禍ロシアのウクライナ侵攻、そして中東とパナマ運河の混乱は、サプライチェーンの専門知識があるCEOの価値を印象づけた。彼らは、発生する可能性は小さいが、ひとたび起こると大激震をもたらす「ブラックスワン」イベントに先手先手を打って対処できるのだ。

 こうした世界的な出来事による深刻なダメージを受けて、一部企業ではCEOみずからが、サプライチェーンの保護や再建に直接的に関わるようになった。調達や生産、ロジスティックスに関する詳細な話し合いは、以前ならサプライチェーン担当部門に任されていたが、いまではCEOの執務室で行われている。サプライチェーンが複雑になり、世界的に絡み合うようになると、サプライチェーンの弾力性は、向こう3年間の成長に決定的に重要な影響を与える要因と見なされるようになった。

サプライチェーンマネジメントから経営トップへ

 これまでは、サプライチェーン機能の重要性を認め、それに関与することがCEOに期待される重要事項だった。だが、いまはCEO自身がSCMの専門家になるべきなのだろうか。S&P500企業のCEOのキャリアパスを調べた研究によると、サプライチェーン関連で高いポジションを担った経験があるCEOは、より弾力性のあるサプライチェーンを構築し、予期せぬ混乱を乗り切るカギとなる役割を果たす可能性があるという。

 具体的には、S&P500企業のCEOの2000~2021年のキャリアパスを分析したところ、SCMの重要ポジション経験者の数は多くはないが、2010年以降は着実に増えていることがわかった。現在および過去のCEOで、サプライチェーン関連の高い役割を担ったことがあるのは17人で、これにはエクソンモービルCEOのダレン・ウッズ(供給・輸送担当バイスプレジデント)、ゼネラルモーターズ(GM)CEOのメアリー・バーラ(グローバル製品開発、購買、サプライチェーン担当エグゼクティブバイスプレジデント)、ハウメット・エアロスペースCEOのトルガ・オール(アメリカン・アクスル&マニュファクチャリングのグローバル調達・サプライヤー品質エンジニアリング担当シニアバイスプレジデント)が含まれる。

 では、SCM関連で高いポジションを担った経験があるCEOは、こうした経験のないCEOと比べて、重点的に取り組む内容に違いがあるのか。年次報告書は、経営者がどのような問題を重視しているかを教えてくれる資料だ。そこで筆者らは、SCM経験のあるCEOがいる企業17社の年次報告書(こうしたCEOの在任期間分)を集めて、そのテキスト中に、「在庫」「サプライチェーン」「ロジスティックス」「調達」といったサプライチェーン関連用語がどのくらい含まれているかを調べた。次に、これら17社と同一業界だが、CEOがSCM経験者ではない企業の、同一期間の年次報告書を調べた。この手法を取ることにより、サプライチェーン関連用語がどのくらい頻繁に使われているかを同一条件で比較することができた。