遊び心こそが組織のレジリエンスと従業員のウェルビーイングを高める
Simon Marcus Taplin/Getty Images
サマリー:職場に遊びやリラックスを取り入れないと、パンデミック後の新しい働き方に逆行することになり、従業員のバーンアウトや士気低下を招く。米国人材マネジメント協会の調査によれば、従業員の44%が仕事でバーンアウト... もっと見るを経験しており、心理的安全やクリエイティビティの重視が持続的なイノベーションに不可欠であることがわかっている。遊び心あるマインドセットが組織のレジリエンスとウェルビーイングを高め、企業の未来への準備につながるのである。 閉じる

仕事中に最高のアイデアが浮かんだ人は、1万5000人中1人もいない

 あるワークショップで、筆者は参加者にこう問いかけた。「目を閉じて、最高のアイデアが浮かんだ時にどこにいたかを思い出してください」。参加者の80%以上は、シャワーを浴びていた時とか、ベッドの中、ジョギング中、あるいは子どもと遊んでいた時と答えた。どれも仕事以外の場である。仕事中に最高のアイデアが浮かんだという人は、1万5000人中、1人もいなかった。これは単なる偶然ではない。従来の労働環境がどれほどクリエイティブな思考を抑圧しているかの現れである。

 実際、2023年のある研究によると、職場での楽しみはクリエイティブな行動と正の相関にある。遊び心のあるリーダーは、チームがより独創的なアイデアを思いつくよう刺激を与え、ポジティブな労働環境をつくろうとする。最もクリエイティブな人々、つまり、子どものことを思い浮かべてみよう。子どもが誰よりも得意なことは何だろうか。それは遊びだ。

 あなたとチームのクリエイティビティの前に立ちはだかる壁を乗り越えるには、まず遊び心のあるマインドセットを持つ必要がある。

遊びは脳にどのような影響を与えるか

 研究によると、クリエイティビティは、脳の認知制御ネットワーク(計画や問題解決に関与)とデフォルトモードのネットワーク(思考がさまよったり、ぼんやりしたりする時に活性化)を行き来する時にしばしば発揮される。実際、創作文芸の作家と物理学者を対象とした研究では、最も重要なアイデアの約5分の1は、具体的な作業に集中している時ではなく、思考がさまよっている時に閃くことがわかった。だからこそ、自然の中で過ごしたり、ただ窓の外を眺めたりしているとクリエイティビティが高まるのである。こうした活動の最中、精神は自由にさまよっている。パーティションに囲まれた典型的な就業時間には、めったにないことだ。

 最近、誰かと口論になった時のことを思い出してほしい。その場を離れてから、ふと頭に浮かんだのは何だっただろう。完璧な反論ではないだろうか。なぜ、その場で思いつかなかったのか。それは、口論の最中は酷使されている脳がみずからを保護しようとするからである。職場ではメールやミーティング、リポート、研修などによって、脳に同様の過剰な負担がかかり、思考を漂わせる時間がない。科学的に言うと、ベータ波の状態に留まっている。ベータ波の状態では、脳は常に忙しく、クリエイティビティは遮断される。この時、意識と無意識の間にある扉が閉ざされているのだ。

 対照的に、アルファ波やシータ波の状態では脳の活動が緩慢で精神的にリラックスし、意識と無意識の間の扉が開く。タスクを完了して一息ついたり、休憩で瞑想したりしてアルファ波の状態になると、クリエイティブなアイデアを受け入れやすくなる。シータ波がよく見られるのは、ぼんやりと空想にふけったり、長距離の運転をしたり、ジョギングをしたりする時である。この状態になると、精神は自由にさまよい、アイデアが自己検閲からも考えすぎからも解放されて自然に流れ出す。閃きの瞬間が、しばしばシャワー中や散歩中、髪の毛をとかしている時に訪れるのは、そのためである。こうした活動によってアルファ波やシータ波の出る状態に自然となり、クリエイティビティが羽ばたく。では、ベータ波からアルファ波やシータ波の状態へと移るためのカギは何だろうか。それは遊び心である。

 どうすれば、忙しくて余裕のない精神状態からクリエイティブな精神状態へと移行できるのだろうか。以下で、遊びを職場に取り入れてクリエイティビティを解き放つ実践的な方法をいくつか紹介しよう。

1. 短時間の遊びのある活動を導入する

 すぐにできる少しばかげたエクササイズの形で職場に遊びを導入すると、クリエイティビティとイノベーションが大いに促進される。筆者はそれを「エナジャイザー」(エネルギー供給装置)と呼ぶ。絵を描くことやロールプレイングのゲームなど、短時間で遊びのある活動は、笑いやクリエイティビティをもたらす。