交渉を成功させたければ「なぜ」「何」「どのように」を質問に織り交ぜよ
Catherine Falls Commercial/Getty Images
サマリー:商談や昇給、あるいはプライベートでの交渉においても、オープンエンドの質問を用いる効果が研究で明らかになった。質問の言い回しが交渉結果に大きく影響するにもかかわらず、ほとんどの交渉者は対話中にこの質問を... もっと見る行う割合が低く、効率的に使えていない。交渉においては、説得と自分の立場を守ることに時間を費やすのではなく、「なぜ」「何」「どのように」の質問を巧みに織り交ぜることで、有益な情報を突き止め、相手との関係を強化し、最終的によりよい成果を上げよう。 閉じる

オープンエンドの質問が交渉結果にどう変化を及ぼしうるのか

 収入を20%増やすことができ、準備に3分もかからず、数秒で実行できる、そのような交渉術をあなたは知っていると想像してみよう。

 この強力な手法は、古代フェニキアの門外不出の秘伝ではなく、戦術家が秘密の作戦指令室で考え出した複雑な戦略でもない。オープンエンド(自由回答式)の質問をするという、ただそれだけの行為である。

 驚くことに、ほとんどの交渉者が対話中に発するオープンエンドの質問の割合は、発言全体の10%にも満たないことが筆者らの研究で判明した。効果的に交渉したい人にとって、これは問題である。

 交渉の専門家たちは昔から、成功のカギは問いかけ(質問)と主張(説得)のバランスを取ることにあると助言してきた。しかしこれまで、その理想的な構成割合はどうあるべきかを確たるデータに基づいて判断するのはほぼ不可能であった。筆者らの研究は交渉の秘訣の解明に近づくものであり、昨今のAIと自然言語処理の進歩がそれを可能にした。

 筆者らは数百に及ぶ交渉のやり取りにおける6万以上の発言ターンを分析し、複雑に見えるが実は単純な真実を突き止めた。交渉者はオープンエンドの質問を多く発するほど、より多く儲けるのだ。

 加えて、特定の質問タイプによる効果の興味深い違いも明らかになった。「この最終期限は、あなたにとってなぜ重要なのですか」という問いは、「この最終期限はあなたにとって、どのように重要なのですか」、または「あなたにとって、この最終期限の何が重要なのですか」という問いと比べて心理的に異なるのか、あるいはより効果的なのだろうか。質問の言葉遣いは、受け取る返答と達成する成果に大きく影響しうることを研究結果は示している。

 本稿では、オープンエンドの質問が交渉結果にどう変化を及ぼしうるのかを検証する。商談や昇給の交渉であれ、幼児にブロッコリーを食べるよう説得するのであれ、質問の威力を理解すれば、圧倒的な優位に立つことができる。

AIを活用し、交渉中の微細な振る舞いを把握

 筆者らのチームは、世界中のMBA受講生および経営幹部らによる数百時間分の交渉の記録を分析するアルゴリズムを開発した。そして交渉の場での成功につながる要素を明らかにするために、コミュニケーション行動をミリ秒単位で入念に検証した。