ブランド価値を下げずに売るため、高級ファッション通販は花卸売市場に学べ
Michel Porro/Getty Images
サマリー:高級ファッションオンライン通販大手企業は、利益を上げられないという状況に直面している。こうした企業に共通する課題が、ブランド価値を損なうことなく、寿命が商品をどのように販売するか、だ。筆者らは、世界最... もっと見る大の花卉卸売市場を運営するロイヤル・フローラ・ホランドが採用している、マルチチャネルの価格下降式オークション(ダッチオークション)という斬新な手法を応用することで、こうしたオンラインプラットフォームに新たな機会が生まれると主張する。 閉じる

利益が上がらない高級ファッションオンライン企業

 高級ファッションオンライン通販大手の3大巨頭である、ファーフェッチ、マッチズファッション、ユークス・ネッタポルテは近年、損失、レイオフ、サプライヤーへの未払いなど、ネガティブなニュースで話題になっている。高級ブランドのリセール市場も成長しているが、利益を上げている企業はない

 各社が抱える問題はそれぞれ異なるが、共通の課題がある。ブランド価値を損なうことなく、寿命が短いをどのように販売するか。そして、オンラインの環境では商品の品質を示す物理的な指標が排除されるため、高級ブランドはどのように製品を差別化し、顧客に効果的に商品の品質を伝えられるか、ということだ。

 従来のマーケターは、不可能だと主張するかもしれない。一見すると、大手3社のプラットフォームは先行きが不透明で、彼らの主張は正しいように思える。数十億ドルもの損失が発生している中で、利益率の低いオンライン販売は、利益率の高いファッションとはまったく異なるビジネスであるというのが一般的な見方だ。マッチズファッションの共同設立者であるトム・チャップマンは、『フィナンシャル・タイムズ』紙にこう語っている。「ファッションマーケットプレイス事業が収益を上げるのは難しいことは、わかりきっていました。eコマースの高級ファッション事業を、そうした(低い)利益率で運営することはできません」

 しかし、世界最大の花卉卸売市場を運営するロイヤル・フローラ・ホランドが採用している、マルチチャネルの価格下降式オークション(ダッチオークション)という斬新な手法を応用することで、オンラインプラットフォームに新たな機会が生まれると筆者らは考えている。

ダッチオークション

 ダッチオークションは、従来のオークションとは逆で、最高値から始まり、徐々に価格が下がっていく。同一の販売者から出品された同一種の花は、ロット単位で販売される。デジタルオークションクロックには、商品の画像や品質に関する情報など入札中のロットに関する情報が表示され、現在の価格が示される。各ロットについて、競売人は高い価格を設定し、価格は徐々に下がっていく。買い手はクロックを停止させ、現在の価格で購入する意思があることを示して入札する。最初にクロックを停止させた人が落札者となり、出品されている数量の範囲内で任意の数量を購入することができる。残りがある場合、競売人はオークションを再開し、価格は下がり続ける。

 このダッチオークションにより、花卉卸売市場では迅速に商品を販売することができる。ロイヤル・フローラル・ホランドでは、切り花の40%以上がこの方式で販売されている。植物、魚、コーヒー、紅茶など、他の生鮮食品や生物もダッチオークションで取引されている。花卉業界は近年、他の多くのビジネスと同様に、大部分がオンラインに移行している。表面上、このシフトは、オンラインでの評価が難しい生鮮食品や生物のオークション市場に問題を引き起こすはずだ。品質にばらつきが大きく、購入者が手触りや鮮度、香りなど従来の物理的な指標に頼ることができないからだ。同じことが、見た目や質感、サイズ、色などの伝統的な指標を持つ高級ファッションにも当てはまる。高品質な製品を生産する企業は、どのようにして自社製品を差別化できるのだろうか。

品質シグナリング:プレセールチャネル

 ロイヤル・フローラル・ホランドは、オークションの前に「固定価格」で花をオンラインで提供するプレセールチャネルを確立することで、品質シグナリングの問題を解決した。筆者らの調査によると、オークションの入札者は、同社のプレセール価格を品質のシグナルとしてだけでなく、自分たちが入札するタイミングの指標としても使用していることが明らかになった。ロイヤル・フローラル・ホランドで1年間に取引された100万ロット以上の花卉を分析したところ、プレセールチャネルで価格を参考にできた入札者は、プレセール価格情報を持たない入札者よりも高い価格で入札する傾向があった。これは、プレセールチャネルで実際に商品が購入されなかった場合でも同様だ(プレセールで提供された花卉のロットは、プレセールで提供されなかった同様のロットよりも、オークションでの収益が約8%高かった)。

 一般的に、ロイヤル・フローラル・ホランドの共同組合に所属する花卉の栽培者は、プレセールで最高品質のロットを提供している。「プレセールで最高の品質のものを提供すれば、トラブルは最小限に抑えられる。品質が低いほど販売が難しくなるか、非常に低価格で出品しなければならなくなる」とある栽培者は筆者らに語った。複数の販売方法を用意することで、買い手は複数の価格発見の方法を利用でき、売り手は市場とのコミュニケーションの機会を増やすことができる。