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社会的インパクトを測定する方法
世界中の大企業が、ESG報告書でサステナビリティ情報を開示している。その内容の大部分は気候変動関連だが、多くの企業は社会的インパクト(ESGのSに当たる)についても報告している。だが、社会的インパクトの測定は、財務会計や環境会計のように単純ではない。財務会計では通貨が基本的な測定単位となり、環境会計では客観的で物理的な指標(キログラム単位による二酸化炭素排出量など)によって環境インパクトを捉えることができる。
意味のある社会的インパクト報告書を作成するためには、さまざまなタイプのインパクトを測定する必要がある。たとえば企業の顧客、従業員、サプライヤー、コミュニティのそれぞれにおける、プラスとマイナスの両面のインパクトを測定しなければならない。問題は、こうしたインパクトを完全かつ包括的に示す尺度を見つけることだ。
たとえば、マイクロファイナンスを考えてみよう。マイクロファイナンスは、貧困層に融資の機会を与えることにより、貧困からの脱却を助けると広く認識されていた。この目標の当初の成功は、それまで信用力が低いため高リスクな貸付先だと認識されていた低所得者に融資した金融機関の財務的利益によって測定された。研究によると、実際にマイクロファイナンスは多くの低所得起業家と、彼らに融資した金融機関にプラスの結果をもたらした。
しかし別の研究が明らかにしたところによると、一部の地域や金融機関では、マイクロファイナンスの高金利が借り手にとって大きな負担となっていた。多くの女性が融資を返済するために家を売らなければなかったほか、債務不履や住んでいる村での面目を失うことへの恐怖から大きなストレスを感じていた。マイクロファイナンスの指標は、貸し手や新規事業を始めた人が経験した財務上の成果を数値化したもので、低所得の借り手が経験した非財務的な結果は表れていなかった。つまり、マイクロファイナンスを実施する金融機関が採用したパフォーマンスの指標は、その金融商品の社会的インパクトを完全に捉えてはいなかったのだ。
同じように、インパクト投資は、それが生み出そうとしている社会的インパクトの報告基準をまだ確立していない。インパクト投資家は、自分のファンドや投資から得た金銭的リターンを報告する。多くは、恩恵を受けた人の数や、創出された質の高い雇用の数など、意図した社会的成果に関連した指標を使っている。だが投資家は、融資を受けた個人や家族の生活にどのようなインパクトを与えたかは、測定できていない。それをしない限り、社会的インパクト報告が、財務報告や環境報告のような十分に強固なレベルに達する可能性は低い。
では、どのようにして社会的インパクトを測定すればよいだろうか。
本人に聞く:患者報告アウトカム指標
その問いの答えとして、医療分野におけるパフォーマンス指標の発展過程が参考になる。医療分野では、長い間、客観的で厳格な臨床アウトカムが、患者のウェルビーイングに関する主観的な尺度の出現を阻んできた。