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サプライチェーンが抱えるリスクを正しく認識しているか
ビジネスにおいて、「ニューノーマル」ほど危険な言葉はないかもしれない。これは、何らかの均衡が成り立っていることを示唆する言葉だ。物事が安全で安定している環境を見出して、そこに留まり続けることが可能だというニュアンスがある。いきなり地殻変動が起きて、それまで抱いていた前提や計画が崩れ落ちるようなことはない、というわけだ。
いま人々はサプライチェーンに関して、ニューノーマルが生まれつつあると感じているようだ。しかし、そうした考え方は間違っている。
新型コロナのパンデミックにより激しいダメージを被ったあと、サプライチェーンの混乱は解消され始めている。ニューヨーク連銀が発表している「グローバル・サプライチェーン・プレッシャー・インデックス」(サプライチェーンの逼迫度に関する指数)は、2020~23年に過去最悪の水準まで上昇したが、すでにコロナ前の水準に戻った。
また、2023年夏、コンサルティング会社アリックスパートナーズの「ディスラプション・インデックス」の調査対象者となった北米の企業幹部の52%は、サプライチェーンを取り巻く厳しい状況が今後解消されるだろうと考えている。逆に、状況が悪化するという予測を示した人は24%に留まった。
企業幹部の中でもCEOの職にある人たちは特に、楽観的な見方をしているように見える。CEOたちは他の役職の人たちに比べて、近い将来に自社のサプライチェーンが大混乱に見舞われるだろうと心配している人の割合が小さいのだ。
企業幹部たちは、サプライチェーンを取り巻く環境が比較的平穏だと感じているが、実際には不吉な兆候があると言わざるをえない。平穏な表面を一皮めくれば、サプライチェーンのリスクはますます深刻になり、システム全体に関わるものになっており、戦略的な重要性も帯びてきている。
そうしたリスクを是正するための取り組みは、どんなに聡明で高いスキルを備えた人たちだとしても、調達部門やオペレーション部門にだけ任せてよいものではない。取締役会の面々とCEOは、サプライチェーンを改めて最優先課題と位置づけて行動すべきだ。本稿では、現在のサプライチェーンをめぐる状況と、リーダーが今日のサプライチェーンを取り巻く課題に対処するために実践できる方法について論じる。
今日のサプライチェーンが直面しているリスク
いまは、コロナ前の20年間に比べると、3つのトレンドにより、サプライチェーンの安定性が大きく損なわれている。それらの要因は、港湾施設のストライキのような短期的なショックに留まるものではない。根深い変化が起きており、それにより企業のオペレーション、セールス、利益、そして究極的には企業価値が脅かされかねないのだ。