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AIにCEOは務まらないと言い切れるか
生成AIが最高経営陣に加わり、さらにはCEOに取って代わることはできるのだろうか。
直観的には、AIがCEOを代行するという概念は、若手のアナリストが代表取締役に大昇進するのと同じくらい非現実的に思えるかもしれない。結局のところAIは、ハルシネーション──間違った情報や誤解を招く情報を生成すること──などの大きな間違いを犯しやすく、タスクを途中で見失う傾向がある。これらは優れたリーダーシップに伴う資質とはほど遠い。複数のステークホルダーの利害を調整し、歴史的トレンドを分析し、市場の些細な変化を察知し、会社の将来を方向付ける戦略的決定を下すことが求められる役割においては、なおさらである。
とはいえ生成AIはすでに、精密さと創造性の両方が必要とされる業界に変化を及ぼしている。たとえばアルファフォールド(AlphaFold)は、タンパク質の折り畳み構造をかつてない精度で予測して革命をもたらし、生物物理学の分野を変革している。一方、オープンAIのコーデックス(Codex)は、人間による単純な指示でソフトウェアのプログラム全体を生成でき、ソフトウェアエンジニアリングの能力を進歩させている。
これらは複雑で難しい課題であり、AIの能力では太刀打ちできないと、ほんの数年前までは思われていた。ならばなぜ、CEOの役割を引き受けることがAIの手に余るといえるのだろうか。
AIが実世界のシナリオでCEOの役割をどのように果たすのか、特に、同じような条件下での人間の意思決定者と比較した場合にどうなるのかを示す実証的データは、現在のところほとんどない。AIの強みと弱みは、さまざまな状況でのテストを経て初めて十分に明らかになる。筆者らは大規模な実環境実験を通じてこの方向に第一歩を踏み出し、経営トップ層におけるAIの潜在的な役割とインパクトをより深く探るための扉を開いた。
CEOたちの競技場
筆者らの実験は2024年2月~7月にかけて行われ、344人の参加者(中央アジアと南アジアの大学に所属する学部生と大学院生、および南アジアの銀行の上級幹部ら)と、オープンAIが開発した最新の大規模言語モデル(LLM)であるGPT-4o(フォーオムニ)が参加した。
参加者は、CEOが直面する意思決定の課題を再現するよう設計されたゲーム形式のシミュレーションを進行し、さまざまな指標が選択の質を追跡する。このシミュレーションは米自動車業界を大まかに再現したデジタルツインであり、自動車販売台数、市場の変化、過去の価格戦略や価格弾力性といった実際のデータと、景気動向や新型コロナウイルス感染症の影響といったより広範な影響をもとにした数理モデルを内蔵している。(情報開示:このゲームは英国ケンブリッジを拠点とする筆者らのスタートアップ、ストラテジャイズ〈Strategize.inc〉が開発した。)
プレーヤーはゲームインターフェースを通じて、多数の企業戦略の決定を1ラウンドずつ下していく。各ラウンドは一つの四半期に相当し、この構成によって参加者は、シミュレーションされた複数の連結年度を通して戦略課題に取り組むことができる。各ラウンドで可能な決定の組み合わせは50万通りを超え、勝つための決まった方程式はない。