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生成AIがもたらす労働者と企業の新たな緊張
どの業界もAIの影響、とりわけ生成AIの影響を感じている。企業幹部がこのテクノロジーの潜在能力に胸を躍らせる一方で、ホワイトカラー労働者は生成AIが自分にとって、また自分の仕事や将来にとって何を意味するのかを警戒している。この認識のずれが新たな緊張を生み、両者の新たな問題となりつつある。
AIを使って何をするのか(あるいはしないのか)という企業の方針に対して、労働者はすでに影響力を行使する行動に出ている。特に注目に値するのは、1万1500人の脚本家を会員とする全米脚本家組合(WGA)が、2023年に行った148日間の長期ストライキだ。このストライキによってエンタテインメント業界は数カ月間、機能しなくなり、最終的に次のような合意に達した。
AIは文学的素材の執筆やリライトをしてはならない、AIが生成した素材は原作と見なされない(AIが生成した素材によって、脚本家のクレジットやその他の権利を侵害してはならない)、AIをトレーニングするために脚本家の素材を利用することを禁じる、脚本家は執筆の際にAIを使用することを選択できるが、企業は脚本家にAIソフトウェアの使用を求めることはできない、といった内容だ。
この結末はWGAの勝利ともてはやされたが、この種の交渉の難しさも物語っている。第1に、この合意は3年間で終了するため、脚本家はすぐに再交渉しなければならない。第2に、脚本家が書いたものが大規模言語モデル(LLM)に取り込まれたどうかを確認する保証された手段がないので、この合意がどのように実施されるかが明確ではない。第3に、この合意は業界に参入するアウトサイダーについて、まったく触れていない。たとえばオープンAIは、AIベースの動画生成ツール「ソラ」を、ハリウッドの映画製作会社やスタジオに売り込んで攻勢をかけている。原則として、スタジオや映画製作会社がオープンAIのツールを使って台本や動画をつくることを禁じるものは何もない。これは脚本家だけではなく俳優の影響力や権力をも著しく低下させるだろう。
WGAのストライキは従業員の行動として最も大規模な例だが、同様の事例は他にもある。経営者は、AIをめぐる不安によってホワイトカラーが組合活動や集団訴訟に駆り立てられる可能性に備えていく必要がある。イングランドとウェールズのブルーカラーおよびホワイトカラー労働者の組合の連合組織、労働組合会議(TUC)が立ち上げた「AI法案プロジェクト」は、労働組合が仕事でのテクノロジーの使用に関して労働者の発言権を強めようと、急速に発展している例である。
以上のすべての問題の根底には、直接的にしろ間接的にしろ、高品質でコンテクストに沿ったデータへのアクセスの問題がある。データは機械学習アルゴリズムが機能するために必要なインプットであり、AIはそうしたアルゴリズムで成り立っている。したがって、高品質なデータにアクセスできる者が、高品質なAIをトレーニングすることができる。
現在のところ、WGAは労働者が作成したデータの生成と使用について規定しておらず、欧州連合(EU)のAI法をはじめとする最新のデータ保護規制は、従業員監視の防止には大きな比重を置いているものの、従業員が創出したコンテンツをモデルのトレーニングにどう使用するかについてはあまり注目していない。その結果として、非常に大きな対立の余地が残されている。このデータの問題に、労働者と企業が有意義で持続性のある方法で対処しない限り、対立は膠着状態や断片的な交渉を経て訴訟を生み続けるだろう。
データ協同組合は、一つの有意義な進むべき道を提供する。データ協同組合は、個人が自分のデータをプールして、そのデータを分析する企業との交渉力を得ることを可能にする組織モデルである。スウォッシュ、データム、MIDATA、Gener8、SAOS、GISC、データワーカーズ・ユニオンのような協同組合は、個人がデータを収益化し管理する手段を提供し、デジタル経済におけるデータと労働者の役割を変革しようとしている。