なぜ人は余計にお金を支払ってでも、課題を早く終わらせたがるのか
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サマリー:従来の経済理論を前提にすると、人々は常にできるだけ早くお金を受け取り、借金の返済は可能な限り先延ばしにすることを好むとされている。しかし、最近の一連の研究では、人々は目標を早く達成できるのであれば、余... もっと見る分にお金を支払うことをいとわない場合が多いことがわかった。筆者らは、この知見を活用してモチベーションを向上させる方法についての洞察を提供する。 閉じる

なぜ割増料金を払ってまで支払いを早く済ませるのか

 住宅ローンの繰り上げ返済は、すべきか、やめておくべきか──グーグルで検索してみると、これに関するアドバイスを記した記事が1億4000万件以上ヒットする。

 そうした記事の結論はほぼ一致している。繰り上げ返済は魅力的な選択肢に見えるかもしれないが、返済を前倒しにするだけのお金の余裕があるなら、そのお金を株式に投資したほうが金銭的に賢明だというのである。株式に投資すれば資産が増える可能性が高いからだ。ところが、多くの人は、繰り上げ返済して一刻も早くローンを返済してしまいたいと考える。

 人々がしばしばこのような嗜好を示すことは、従来の経済理論を前提にすると説明が難しい。これまでの経済理論では、人はお金をできるだけ早く受け取り、支払いは少しでも先延ばしにすることを望むものだとされているからだ。

 しかし、筆者らが米国で合計2000人近い人を対象に行った一連の研究によると、この理論は現実を反映していない。たとえば、一つの実験では、実験参加者に対して、多く料金を支払っていますぐにサービスを利用するか、料金が少し安くなる代わりにサービスを利用するのを遅らせるかという選択を複数回行わせた。すると、86%近くの人が、少なくとも一つの選択で、料金が高くなっても早く支払いを済ませることを選んだ。

 また、同じ実験参加者に、すでに完了した仕事への支払い方法を選択するよう求めた。いま支払いを受けるか、それとも少し待つ代わりに多くの金額を受け取るかを選ばせたのだ。

 驚くべきことに、この実験で金額が少なくても早く支払いを受けたいと望んだ人たちは、サービスの利用に関しても、少し待てば支払額を減らせる場合でもすぐに支払いたいと答えていた。支払いを急ぐ傾向と、お金を受け取るのを急ぐ傾向の間には、正の相関関係があった。

 では、筆者らの実験参加者や、住宅ローンを借りている人たちが「待てない」理由はどこにあるのか。

 筆者らの研究結果は、人々が経済理論と矛盾する意思決定を行う理由を明らかにしている。それは、目標を完了すること──たとえば、住宅ローンの返済を終わらせること──で得られる安心感は、金銭的利益より大きな意味を持つ場合があるからだ。人々は、目標を達成する感覚を強く求める一方で、未達成の目標を抱えていることによる精神的な負担を極度に嫌う。