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他の業界で通用した手法がディープテック企業では通用しない理由
過去10年の間にテクノロジー業界のニッチな一角が、いくつかの最も優れたブレークスルーを生み出してきた。ディープテックイノベーション──最先端の科学知識を活用し、以前には想像もできなかった技術を創出する取り組み──によって、スペースXのような革新的企業やmRNAワクチンのような製品が生まれた。
そして新興企業の一群が、革新的なアイデアを発展させている。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らによる「ハリシン」の発見は、世界的な抗生物質耐性の問題にディープテックがどのように立ち向かえるかを示している。テラパワーという会社は、原子力のイノベーションを持続可能エネルギーに活用すべく取り組んでいる。クアンデラは量子コンピューティングの最先端に立ち、計算能力と暗号化の飛躍的進歩を約束している。このような発展は産業、経済、さらには人々の生活をも根本的に変える可能性がある。
当然ながら、ディープテックの将来性は新たな投資の関心も惹きつけている。ボストン コンサルティング グループの最近のデータによれば、ベンチャーキャピタルの出資に占めるディープテックの割合は過去10年で約10%から20%に倍増した。ディープテックに特化した投資ファンドのパフォーマンスは従来のベンチャーキャピタルを上回り、平均内部収益率は26%に達している(後者は21%)。
しかし、大きな可能性とは裏腹に、ディープテックスタートアップには一連の特有のビジネス課題が伴う。まず、ディープテックの製品は往々にして長期にわたるR&Dと多額の先行費用を必要とするため、一連の工程を短期間で繰り返す迅速なイテレーションとコスト効率の維持が難しい。また、成長して市場参入の準備が整うまでに長い期間を要する場合が多い。加えて、厳しい規制環境と、ディープテックの技術的複雑性ゆえに、他のテック企業よりも洗練されたアプローチが求められる。
他業界や他の技術分野で成功したリーダーでも、これらの課題に圧倒され、過去に奏功した自分の戦略がこの新領域では通用しないと気づかされることが多々あるのだ。
エリザベス・ホームズが起こしたセラノスのスキャンダルを考えてみよう。ホームズの戦略は、ラピッドプロトタイピングと迅速な市場参入に重点を置き、最先端のポータブル血液検査機器でヘルスケアに破壊的変化を起こすことを目指していた。ある意味では、このアプローチは成功した。分散型の診断方式の価値を実証し、10億ドルを超える資金を集めたからだ。
ところが彼女のアプローチは、リーンスタートアップの手法が提唱するように、必要な技術は迅速なイテレーションを通じて発展するという前提に基づいていた。しかし、既存技術を強化する典型的なテックスタートアップとは異なり、セラノスの機器向けの技術は、当時は存在していなかったのだ。