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企業は経済重視を主張するポピュリストに注意せよ
ゾルタン・バルガが率いるメディア企業は、女性誌やライフスタイル誌を中心に約45誌を発行していて、2020年には年間6600万ドルの売上げがあった。ただ、その会社はハンガリーにあって、ビジネスは年々難しくなっていた。つい最近も、大きな利益が期待できるオンライン部門の合併が、ビクトル・オルバン首相率いる政府によって阻止された。それは刊行物に政治情報サイトが含まれていたからなのか。それでもバルガは会社を手放すつもりはないのに、最近、買収提案が2件も舞い込んできた。よその会社でも、規制や税務調査の対象になったとか、オルバンの関係者への事業売却を迫られたといったという話を、バルガは耳にしていた。いま、バルガが経験しているのも同種のことなのか。ハンガリーの他の実業家たちのように、黙って会社を売却して、国を去ることになるのか。
ハンガリーの起業家たちは当初、オルバンは「安全な」タイプのポピュリストだと考えていた。選挙活動では社会を分断するようなことを言っているが、同時に、よい統治や市場改革、そして民間部門の成長を訴えていた。オルバンのポピュリズムは、ベネズエラのウゴ・チャベス大統領やアルゼンチンのクリスティーナ・キルチネル大統領が掲げる、何もかもを焼き尽くす左派ポピュリズム(その無謀な経済政策は信用リスクを急上昇させ、投資家の信頼を傷つけ、通貨の価値を暴落させた)ではなく、甘受できる(と一部の人は考える)右派ポピュリズムだった。つまり、選挙に勝つためにポピュリズムを装っているのであって、当選後は企業寄りの良識的な政策を堅持する。少なくとも、そのように見えた。
バルガがハンガリーで感じたジレンマは、世界中の企業が総じて抱いているものでもある。一般に企業は左派ポピュリストを嫌うが、ビジネス寄りのポピュリストだと主張されると、簡単には拒絶しなくなる。ハンガリーのオルバンであれ、インドのナレンドラ・モディ首相であれ、イタリアのシルビオ・ベルルスコーニ元首相であれ、ビジネス寄りだと主張するポピュリスは、少なくとも当初は、実行力のある「バリバリの」問題解決者という印象を与える。ずけずけと単刀直入に物を言うスタイルは、粗削りだが真っ当だと、経営者たちは感心する。ポピュリストはそれを知っているから、自分は「経営者的なリーダーだ」というイメージを打ち出す。また、ビジネスで成功した経験を、政治の世界でも大きなことを成し遂げられる根拠としてアピールする。
だが、このような政治家は、本当に民間における富の創造を後押しするのか。筆者らは10年以上にわたりポピュリズムの経済的・社会的ダイナミクスを研究し、そこから得られたデータを整理した。その結果、前述の問いに対する答えは「ノー」であることがわかった。ビジネス寄りだと最初は主張する右派ポピュリストの場合もそうだ。しかも、右派ポピュリスト政権が2期目に入ると、状況はさらに悪化する。
ビジネス寄りの(はずの)ポピュリストが出馬(または再出馬)すると、一部の経営者はチャンスだと考える。だが、実際には、自社がさらされるリスクを軽減し、安定を強化する措置を考えるべきだ。
政権が長期化するほど、問題は増える
企業の成長や成功を図る指標はいろいろある(売上高、利益、社会的インパクト、従業員や顧客の満足度など)が、株価(投資家が持ち分を取得するために払ってもよいと考える価格)が重要な指標であることに議論はないだろう。
そこで筆者らは、英金融情報会社リフィニティブの株式市場データに基づき、データが入手可能な国すべて(先進国と主要新興国)について、米ドルベースのトータルリターン(配当を含む)を比較して、左派ポピュリスト政権と右派ポピュリスト政権のときの株価の動き、そして政治的「穏健派」が僅差で勝利を収めたとき(2017年のフランス大統領選で、エマニュエル・マクロンが極右のマリーヌ・ルペンと競り合ったときや、2020年の米大統領選でドナルド・トランプとジョー・バイデンが対決したときなど)の株価の動きを調べた。
どの政治家を「ポピュリスト」とみなすかについては、政治学で広く使われる基準と、筆者らが協力した外部プロジェクトの基づき判断した。すなわち、ポピュリストとは以下の3つの要因により定義される。(1)国民を、善良で正しい「人民」と、エリートまたは不相応なマイノリティーに分断する政治戦略を中核に据えている。(2)自分たちは「人民」の唯一あるいは最高の代表だと主張する。(3)民主主義とは、政府が「人民」の意思に応えるために働くものであり、独立機関の制約や監視や固有の権利による制約を受けないと考えている。