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AIの活用が組織全体の集合知を高めるようにするには
マネジメントの世界では昨今、AIを「自動化」の手段か「能力の拡張」の手段かという観点で捉えるのが一般的だ。自動化とは、それまで人間の働き手が実行していた課題を機械が行うようにすること。それに対し、能力の拡張とは、人間と機械が協力して課題を実行するようにすることだ。
これまでの常識では、自動化よりも能力の拡張のほうが高いパフォーマンスにつながるとされてきた。人間と機械を協働させることによって、近視眼的な思考、いわばロックイン効果による柔軟性の不足、そして人間の直観とスキルの欠落といった問題を緩和できるというのが理由だ。裏を返せば、これらの問題は、長い目で見た成功を阻害する要因と見なされていると言ってよいだろう。
しかし、残念ながら、このような考え方は重要なことを見落としている。AIの活用により能力の拡張が行われる場合も、自動化が起きないわけではないのだ。自動化の対象が低いレベルの情報収集や意思決定に限定されて、自動化が目につきにくくなるだけのことだ。
たとえば、生成AIアシスタントを拡張のために活用し、人間とAIの協働により、オンラインストア向けの商品説明を執筆させるとする。この場合は、説明文の最初の草稿を執筆する作業を自動化することになる。ここでは、人間の直観や専門知識、経験、推論を、AIシステムが適切と見なすものによって代替する。そうした代替が進む結果として、人間のスキルの低下など、負の影響が生じる可能性がなくなるわけではない。拡張戦略によって自動化戦略の悪影響を回避できるように思えるかもしれないが、実際には悪影響を緩和することしかできないのだ。
AIを導入することで戦略上の目標を前進させ、主要な目的を達成できるようにするためには、マネジャーが発想を転換する必要がある。具体的には、AIの活用が組織全体の集合知(Collective intelligence)を高めるようにすればよいのだ。
集合知とは、協働、集団行動、競争を通じて形成され、共有される知性のことだ。ある集団の集合知は、その集団がコンセンサスを築き、複雑な問題を解決し、環境の変化に適応する能力をどの程度持っているかに影響を受ける。
最近の研究によると、集合知は、相互に依存関係のある3つの要素によって形づくられる。その3つの要素とは、集合的記憶、集合的関心、集合的推論である。