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無難なものを選ぶ「戦略近視眼」に陥っていないか
私たち人類はこの1世紀、効率的な組織を築くことを目指し続けてきた。その結果、途方もなく巨大な企業が出現して、経済のあり方を一変させ、莫大な富を生み出す力を持つようになった。いまでは、国家を上回る経済規模を誇る企業も少なくない。その過程では、最適化と賢明なマネジメントの力により、当初はただ目新しいだけの商品に見えていた新商品が巨大なビジネスに成長してきた。振り返れば、自動車もそうであり、電話やPCもそうだった。このような進歩の本質は、利便性と効率性の追求にあった。つまり、予測可能性があり、マネジメント可能な活動を実践することを通じて、安定と利益を獲得しようとしてきたのである。
しかし、世界のあり方が根底から変わっているとすれば、過去に実践してきたことに磨きをかけるだけでは成功できない。これまでやってきたことの効率を高めようとだけ考えていては、環境の変化に合わせて新しい戦略を築く機会を活かせない。
たとえば、ヤフーは最盛期に、その気になれば、自社とはまったく異なるアプローチでインターネットに向き合っていた検索エンジンであるグーグルをやすやすと買収できたはずだ。しかし、当時のヤフーはグーグルの買収にお金を使わず、自社の既存の子ども向けポータルサイト「ヤフーきっず」を充実させることにお金をつぎ込んだ。さらに古い例を挙げると、電信会社だったウェスタン・ユニオンもベル電話会社を買収するチャンスがあったにもかかわらず、新しい電話のビジネスではなく、自社の電報をより安価に、より使いやすくするために投資することを選んだ。
ここに挙げた2つの事例のように、言ってみれば「戦略近視眼」の落とし穴にはまる企業は後を絶たない。戦略近視眼とは、緊急性が高く、有効性が実証されていて、数値計測しやすいものを優先させる傾向のことだ。このパターンに陥った企業は、不確実性を受け入れようとせず、どのような結果になるか予測がつく無難な計画を実行することに終始する。
このような近視眼が生まれる理由の一つは、私たちが新しい戦略に期待すべきものを誤解していることにある。戦略は、計画とは異なる。計画は、「もしこれを行えば、私たちは勝てる」という保証を伴うものである。それに対して、戦略は、「これはうまくいかない可能性がある」というモットーの下で追求されるべきものだ。言い換えれば、戦略とは、いまとは違う状態を目指す思想である。それは、世界に起こしたいと考える変化を実現させるために、その変化が可能になる状況をつくり出すことを目的とするものなのだ。
確実性があり、裏づけのある戦略を立案するよう上司から指示されれば、人はおのずと、同じことの繰り返し、既存の業務の継続、戦術の寄せ集めを選ぶことになるだろう。それは、エレガントでレジリエンスのある戦略とはとうてい言いがたい。戦略と呼ぶに値する戦略をつくりたければ、不確定な要素を積極的に受け入れなくてはならないのだ。
私たちはいとも簡単に、戦略近視眼にはまり込む。昨今のようにテクノロジーの変化が激しい環境では、とりわけその傾向が目立つ。そうした落とし穴を回避するためには、リーダーは以下の原則に従って行動すればよいだろう。
1. 誤った基準を拒絶する
新しいプロジェクトや市場を一つの新しい産業に成長させる要素とは、どのようなものなのか。その要素は、利便性と効率性の組み合わせだ。