生成AIの登場で労働市場はどう変化したか
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サマリー:2000年代初頭、アマゾンが物流業務にロボット「キバ」を導入した際、人間の仕事が機械に取って代わる不安が広がった。同様に、生成AIの進歩は多くの職業に影響を与え、特に執筆やコーディングの分野で顕著である。筆... もっと見る者らがオンラインフリーランサー市場での生成AIの影響を分析した結果、雇用要件や支払い意欲の変化が確認された。この技術の影響は既に現れており、労働市場に新たな課題と機会をもたらす可能性がある。 閉じる

オンライン労働市場における生成AIの影響はすでに顕在化

 2000年代初頭、物流センター業務の自動化に向けてアマゾン・ドットコムがロボット「キバ」を導入すると、人間が行ってきた仕事を機械に奪われることへの不安が従業員の間に広がった。

 現在、チャットGPTのような生成AIや自然言語処理の進歩が多くの業界に変革をもたらし、同様の懸念を引き起こしている。ただし、過去の自動化テクノロジーとは異なり、生成AIはあらゆる職業セクターに影響を与える可能性を秘めているという意味で独自の存在だ。しかも、時間が経つにつれて、自身の能力をさらに向上させる能力も備えており、単に人間の代わりになるという形を超えて労働力に影響を及ぼすと見られる。

 筆者らは『マネジメント・サイエンス』誌に掲載予定の最新研究で、オンラインフリーランサー需要の動向を分析し、生成AIが労働市場に与えてきた影響を調査した。その結果、これらのツールが導入されて以降、人間の仕事が機械に置き換えられる現象が短期間のうちに顕著に進み、特に執筆やコーディングなど自動化に向いている職種がチャットGPTの影響を最も強く受けたことが明らかになった。また、生成AIの登場に伴うオンライン求人市場の進化について理解を深めるために、競争状況や求人の要件、雇用主の支払いへの意欲の変化も検証した。

 まだ初期段階とはいえ、オンライン労働市場における生成AIの影響はすでに顕在化している。そうした影響は長期的な労働市場のダイナミクスに変化をもたらし、課題とチャンスの両方を生み出す可能性がある。

オンライン労働市場における生成AIの影響

仕事の代替効果

 この研究では、2021年7月から2023年7月の間に世界有数のオンラインフリーランスプラットフォーム上に投稿された求人138万8711件を分析した。こうしたプラットフォームはデジタル化されており、タスク指向で柔軟な働き方を扱っているため、新たなトレンドを調べるのに向いている。我々の分析は、チャットGPTと画像生成AI という2種類の生成AIツールの登場に焦点を当てた。そして、こうしたツールの登場と普及によってプラットフォーム上の求人需要が減少したかどうか、また減少した場合、どの職種やスキルがどの程度の影響を受けたかを調査した。

 まず、機械学習アルゴリズムを用いて、求人投稿を詳細なジョブディスクリプションに基づいてカテゴリー別に分類し、それらのカテゴリーをさらに次の3つのタイプに分類した。手作業主体の仕事(データ・オフィスマネジメント、動画サービス、音声サービスなど)、自動化向きの仕事(執筆、ソフトウェア・アプリ・ウェブ開発、エンジニアリングなど)、画像生成に関する仕事(グラフィックデザイン、3Dモデリングなど)である。そのうえで、生成AIツールの登場が3つのタイプの職種の需要に与えた影響を調査した。

 その結果、チャットGPTや画像生成ツールの登場を受けて、すべての職種タイプにおいてオンラインギグワーカー向けの求人投稿がほぼ即座に減少した。ただし、なかでも「自動化向きの仕事」ではその傾向がとりわけ顕著で、チャットGPTの登場後、自動化向きの仕事における1週間の求人投稿数は、手作業主体の仕事と比較して21%減少していた。特に影響が大きかったのは執筆関連の仕事(30.37%減)、ソフトウェア・アプリ・ウェブ開発(20.62%減)やエンジニアリング(10.42%減)がその後に続いた。