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地政学的・技術的混乱の中で、いかに企業を率いるか
現在、二つの重要なトレンドが世界を再構築しつつある。第1に、AIや先端的な電気通信技術、合成生物学、量子コンピューティングなどの重要な新興テクノロジーのブレークスルーによって、世界のパワーダイナミクスや経済、安全保障の枠組みが再定義されつつある。第2に、地政学的に不安定な状況によって、サプライチェーンが混乱し、同盟関係が変化し、重要な資源やテクノロジーをめぐる競争に拍車がかかっている。ロシアのウクライナ侵攻や、米国と中国の間の緊張の高まりに加えて、ガザ地区とレバノンにおけるイスラエルの二正面戦争が中東全体を巻き込む紛争の導火線になることが懸念されている。ドナルド・トランプの大統領再選は、こうしたダイナミクスを間違いなく激化させるだろう。
また、この二つのトレンドは一つに収束しつつある。テクノロジーの戦場への進出が急激に進んでいるだけではなく、テクノロジーそのものが国際的緊張の原因になっている。世界中の政府がテクノロジーにおける優位性と自律性を追求し、貿易障壁、輸出や投資の統制、データの流れとグローバルなサプライチェーンの再編を目的とした産業政策を実施している。
その結果、企業はますます不安定さを増す環境を切り抜けなければならなくなった。経営陣は、複雑に絡み合うテクノロジー革命や地政学的混乱の不確実性とリスクに対応し、できればそれらを緩和しなくてはならないというプレッシャーにさらされている。
筆者はオーストラリアの初代サイバー問題・重要技術担当大使として、同じような困難に直面した。どのテクノロジーや政治的展開が重要でありオーストラリアの国益にインパクトを与えるかを見極めると同時に、国家の安全保障、経済成長、そしてすべてのオーストラリア国民の安全をもたらすべく、先を見越したテクノロジー戦略を調整し、創出し、実施してきた。さらに、政府内のイノベーションの文化の醸成にも取り組んだ。
国家と企業とではリスクもツールも、目的もモチベーションも異なる。しかし、両者ともグローバルなリスクのトレンドに対処し、何十億ドルもの投資を監督して保護し、同時にステークホルダーの信頼と信用を維持しなければならない。筆者がオーストラリアの新興テクノロジー重視の外交政策に取り組んで得た教訓の多くは、民間部門にも当てはまるだろう。そしてビジネスの成功と失敗を明確にするために役立つことと思う。
現代の地政学とテクノロジーの乱気流の中で企業を率いていくために、経営チームは以下の3つの不可欠なタスクに注力することをお勧めする。グローバルなテクノロジーのトレンドを理解すること、戦略的投資を行うこと、そしてアジャイルなリーダーシップを推進することである。どのタスクも、秩序立てて困難に対処し、混迷を深める環境で業務を効果的に遂行し、自信を持って組織を導くために極めて重要である。
現在のテクノロジーの状況と潮流を理解し、将来の地政学的緊張に備える
2019年、オーストラリアの国際サイバー問題・重要技術戦略を構築し始めた当初、政府のテクノロジー政策の課題はテクノロジーの専門家が対処すべきニッチな領域の課題であると見なされることが多かった。しかし、テクノロジーが世界情勢の中心的ダイナミクスへと発展しているのは明らかだった。テクノロジーの理解と活用は、オーストラリア政府の中核的な戦略的関心となり、テクノロジーは、閣僚や省庁トップ、情報機関のリーダーなど多くの上級リーダーにとって優先度の高い考慮事項になった。
いくつか一触即発の事態を招きかねない潮流が、すでにはっきりと表れていた。米国と中国の間においてテクノロジーと貿易面の対立が本格化し、危機の時期か比較的平穏な時期かを問わずサイバー攻撃が常態化し、世界中の政府がデータの統制やテクノロジーの規制を強化した。その一つがEU一般データ保護規則(GDPR)である。この状況を乗り切るために、私たちは強力なインテリジェンス評価を活用し、地政学的トレンドを分析し、複雑なテクノロジー関連の予測を常に把握していた。そうすることで、優位な立ち位置を確保し、十分な情報に基づく戦略的プランを構築することができたのである。