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「認知適応性」を高めれば脳は進化し続ける
ウィンストン・チャーチルは、本人もはばかることなく認めていたように、食事の前であれ後であれ、また最中であれ、のべつ幕なしにシガーを吸い、酒で喉を湿らすことを一種の儀式にしていた。
その一方、彼の知力はずば抜けていた。歴史家たちが書き記しているように、そんな彼は90歳まで生き長らえた。このことは、いま解明されつつある脳が身体に及ぼす影響について多くのことを語っている。
もちろん、チャーチルに倣って、このような不摂生を真似るビジネス・リーダーは稀だろう。平均余命が延び続けるなか、人々は「健康で長生きしたい」と願って、努力に努力を重ねている。ちなみにアメリカ心臓協会(AHA)は、週5日、1日30分の適度な運動を推奨している。
いまや驚くことではないが、大企業の大半が、その福利厚生の一環として、社員にスポーツ・クラブの会員資格を与えたり、職場内にジムを設けたりしている。出張では、十中八九、ホテルにフィットネス・センターがついている。そこには、順番待ちしないといけないマシンもあるだろう。
とはいえ、メンタル・ヘルスの維持に積極的に取り組もうにも、つい最近まで、何のガイドラインもなかったようである。年を取るにつれて物忘れや分析力の鈍化が訪れるが、これらを食い止める脳力トレーニング、言わば「知的腕立て伏せ」も存在しなかった。しかも最悪の場合、治療法がまだ確立されてないアルツハイマー病になるかもしれない。
アメリカ政府は、神経科学研究の必要性について一般の認識を高めるために、1990年代を「脳の10年」と宣言し、アメリカ国立衛生研究所(NIH)とNIHの一機関である精神衛生研究所、アメリカ議会図書館が協力し、集中的に取り組んだ結果、研究とトレーニングの両面で広範な進歩が見られた。それらは、脳にまつわる固定観念の一部を覆すものである。
その一つに、年齢を重ねると共に、脳もおのずと衰えていくという固定観念がある。しかし、ニューロン、すなわち情報を伝達することで脳の情報処理能力を支える基本細胞は加齢によって死んだりしないことがわかった。