脳の働きを解明する

 我々は、いつも万全な精神状態で意思決定を下しているわけではない。それゆえ、衝動的だったり、あるいは反対に慎重すぎたりして、判断を見誤ることがある。感情の赴くままにあっさり結論を出したかと思えば、次の瞬間には不安で身動きが取れなくなる。そうこうしているうちに、突如名案が浮かび、自分でも不思議に思う。

 このような意思決定のメカニズムについて、我々は無知に等しい。しかし、人間の脳を調べる神経科学者たちが徐々に解明しつつある。その発見は、少々がっかりさせるものかもしれないが、必ずや役に立つことだろう。

 研究が進み、人間の脳が動物のそれと大差ないことがわかってきた。我々の脳は、基本的にイヌのそれと変わらない。その違いは、人間の脳はイヌの脳と同じものの上に大脳新皮質が乗っていることである。おしなべて文明は、大脳新皮質という薄皮一枚によって築かれたのだ。

 大脳新皮質は、計画や検討、決定などの行為をつかさどるが、旧いイヌの脳の部分も休んでいるわけではない。新皮質とたえず連絡し合い、意思決定にプラスやマイナスの影響を与えている。ただし、我々はそれをまったく意識することはない。

 脳の活動を調べる画像診断装置を使えば、新旧の脳が協力、時には対立しながら、意思決定していることがわかる。だからといって、正しい意思決定を下したり、他人の意思決定をコントロールするための公式がすぐに編み出せるわけではない。

 昨今「ニューロ・マーケティング」などと喧伝されているが、そう簡単なことではない。とはいえ、脳の意思決定メカニズムを理解すれば、自分をコントロールしやすくなるというメリットがある。