情緒不安定なリーダーが組織にもたらす負の影響
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サマリー:職場には、怒りを爆発させ、その後に反省を繰り返すという情緒不安定なリーダーが少なからずいる。最新の研究によると、このような虐待的行動と倫理的行動を交互に取る「ジキルとハイド」型のリーダーシップは、従業... もっと見る員の不安や感情的疲労を増大させ、パフォーマンスや組織市民行動を低下させたうえに、非生産的な行動を助長する可能性がある。 閉じる

リーダーが虐待的な行動と倫理的な行動の間で揺れ動くことの弊害

 パットが足早に自分のオフィスに戻ると、自分が発した怒りの言葉がまだ耳に残っていた。その数分前、パットはテストに失敗したプロダクトリードを、チーム全員の前で「能力不足」「恥さらし」と公然と非難したのだ。さらに悪いことに、パットがこのように激しく怒りを爆発させたのは今回が初めてではなかった。感情を爆発させ、その後に反省し悔恨するという彼のパターンは、同僚たちにとっては日常茶飯事で、「よいパット」(ジキル博士)か「悪いパット」(ハイド氏)か、今日はどちらのパットが現れるのだろうかと口にすることもよくあった。

 パットが椅子にへたり込むと、罪悪感がじわじわと押し寄せてきた。「彼らに埋め合わせをしよう」と彼はつぶやいた。これから数日間、いつもより親切で公正に振る舞えば、激怒したことのダメージを帳消しにできると自分を納得させた。しかし、パットは自分が危険な賭けをしていることに気づいていなかった。彼が思っている以上にチームのパフォーマンスにとってリスクは高かった。

 一般常識や既存の研究では、マネジャーが虐待的な態度を取っても、その後に倫理的に行動することで「埋め合わせ」ができるという考え方が支持されてきた。しかし、筆者らの最近の研究結果は、これを覆すものだった。リーダーが虐待的な行動と倫理的な行動の間で揺れ動くと、虐待的行動だけの場合よりも、従業員のパフォーマンスに悪影響を及ぼすのだ。こうした「ジキルとハイド」型のリーダーシップスタイルは、従業員の不安と感情的疲労を高め、職務を効果的に遂行する能力を損ない、重要な組織市民行動(同僚を助けるなど)を取る意欲を低下させ、非生産的な勤務態度(事務用品を盗むなど)を取る可能性を高める。

「ジキルとハイド」型リーダーについての研究結果

 虐待的リーダーシップと倫理的リーダーシップを長期にわたって交互に行き来する(つまり、両方のスタイルを実践する)リーダーの影響を探るため、筆者らは最近、米国と英国で正社員650人以上を対象に、調査データと実験データを用いた3つの調査を実施した。研究結果は『ジャーナル・オブ・アプライド・サイコロジー』誌に掲載されている。

 この研究では、虐待的行動(リーダーの敵対的な言語行動や非言語的行動を特徴とする)は、リーダーの不正義を表す。逆に、倫理的なリーダーシップは、公正な扱いや適切な行動の強化を通じてリーダーの正義を例示するものである。これらの行動は、同じリーダーの中に共存しにくいと思われるが、リーダーは従業員と接する際に、時と状況に応じて公正な行動と不公正な行動を交互に繰り返す可能性があることが示されている。

 たとえば、あるリーダーが、従業員のプロジェクトのミスに対して虐待的な対応をしても、翌日にはその従業員に対して気遣いを見せることがある。これは短期的には対処可能なように思えるかもしれないが、こうした行動の振れが繰り返されると重大な結果をもたらす可能性があり、筆者らの研究はそこに焦点を置いた。

 虐待的行為はたしかにそれ自体悪いことだが、従業員は少なくとも、たえず虐待的なリーダーの行動を予測し、そのリーダーを避けるか、自分自身と自分のウェルビーイングを守る方法でそのリーダーと接することができる。しかし、虐待的行動と倫理的行動を交互に取るリーダーの場合、従業員がその人の行動を予測できず、その結果、精神的に疲弊し、仕事のパフォーマンスが低下する。

 さらに、こうした従業員のパフォーマンスへの有害な影響は、従業員が一貫性のないリーダーシップの直接的な受け手ではない場合でも顕著に現れる。直属の上司が、上級管理職による虐待的リーダーシップと倫理的リーダーシップのサイクルにさらされていると聞くと、従業員は、チームと上級管理職を効果的につなぐ上司の能力を疑うようになる。こうして従業員は、上司がチームを代表して上級管理職に影響を与える能力(価値あるリソースの確保など)について懸念を持ち始め、その結果、チームの業績や貢献に対するモチベーションが低下する。