グローバリゼーション戦略を見直すための8つの問い
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サマリー:企業は新たなグローバリゼーションの現実に直面し、地政学的対立やサプライチェーンの脆弱性、米国の貿易政策変化への対応が求められている。経営者は自社の弱点を把握し、従来の戦略を見直す必要がある。本稿では、... もっと見るそのための8つの問いを提案する。 閉じる

経営者はグローバリゼーション戦略を再検討すべきだ

 いま世界中の企業は、新しい時代のグローバリゼーションの現実に直面している。地政学的対立の激化、新型コロナ禍により浮き彫りになったサプライチェーンの脆弱性、自国中心主義的な政策の台頭が組み合わさる結果として、グローバルな貿易環境がいっそう厳しいものになることが予想されるのだ。それに加えて、米国大統領選挙でドナルド・トランプが大統領への返り咲きを決めたことにより、米国政府は外交と貿易でこれまでより取引志向の強いアプローチに転換すると予想できる。

 こうした状況の下、企業経営者は、自社のグローバリゼーション戦略を再検討する必要に迫られている。具体的には、自社の弱点を深く理解することから出発し、そのうえで、これまであまりに長い間、当然視されてきた考え方の数々を見直す必要があるのだ。本稿では、その際に企業経営者が検討すべき8つの問いを示す。

1. 我が社は、すぐに思いつくもの以外に、どのような原材料や部品を用いているか

 企業が抱えている脆弱性は明白な場合が少なくないが、短期間で対処することがとりわけ難しいのは、往々にして想定していなかった問題だ。国外のサプライヤーに依存している多くの企業にとっては、サプライヤーのサプライチェーンのどこか、サプライチェーンで自社から遠く離れた場所に、そのような想定外の問題が潜んでいる可能性が高い。

 コロナ禍の時期に、米国でジェネリック医薬品の不足が深刻化した時に浮き彫りになったのは、米国がインドのジェネリック医薬品メーカーに依存していることだけではなかった。そのようなインド企業の多くが医薬品の原薬(有効成分)を中国のサプライヤーに依存していることもまた浮き彫りになった。そして、それらの中国企業の中には、新型コロナウイルス感染症の最初の感染者が確認された湖北省武漢に拠点を置いている会社もあった。

 同じ時期、米国の自動車メーカーは半導体不足に直面した。これらの企業はよく認識していなかったが、サプライチェーンの遠い場所に位置するサプライヤーがアジアの半導体工場に依存していたのだ。アジアの半導体工場は、自動車産業だけでなく、いくつもの産業に半導体を供給していた。消費者向け家電とコンピュータの需要が高まると、これらの産業で用いる半導体の生産が優先された結果、自動車メーカーが半導体を入手できるまでの期間が突然、1年間に伸びてしまった。

 サプライチェーンでサプライヤーが幾層にも連なるようになるとともに、把握しにくい脆弱性が増加している。関係する企業が何百社にも上るようになれば、サプライチェーンの全容を視覚化し、脆弱性を明らかにすることは、非常に難しく、大きなコストがかかる。ほとんどのサプライヤーは、顧客に対して自社のサプライヤーを教えたくないと考えており、その点が脆弱性の把握をいっそう難しくしている。

 筆者が最近行った研究では、そうした想定外の状況の一つに光を当てた。シリアルや、栄養価を高めたパン、小麦粉、パスタ、精米などの穀物製品をつくっている米国企業はしばしば、葉酸(ビタミンB9)を製品に添加している。こうした米国企業は他の成分と混ざった配合剤の状態で葉酸を仕入れている場合が多いが、筆者が行った共同研究(未公刊)によると、米国に輸入されている葉酸の58%(出荷数ベース)、そしてビタミン全体の78%は、中国由来であることがわかった。それを聞けば驚く米国の企業や消費者は少なくないだろう。