
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
環境目標を達成するために、利益の最大化を諦めていないか
良好な自然環境の大切さと、未来にとっての意義を理解していない人はいない。しかし、環境保護をめぐる義務は、立派ではあるが達成困難な目標と見なされがちで、短期的、中期的には多大なコストと犠牲を伴うものだと思われている。たとえば、グリーンテクノロジーの採用は既存の産業に大混乱を引き起こし、企業や社会に多大な調整コストを課す可能性がある。
だが、2つの優先項目のうちの一つを実行に移そうと思ったら、もう一方を犠牲にするしかないのだろうか。私たちの答えは「ノー」だ。多くの場合、企業は社会の環境課題に対処しながら、同時に自社の経済的利益に直結する革新的なソリューションを生み出すことができる。
石油・ガス業界とビットコインマイニングの間で進みつつある連携を例に取ろう。石油会社は長年、炭素排出量や環境汚染を減らすよう強い圧力を受けてきた。問題は、採掘時に発生する過剰な天然ガス、主にメタンガスの取り扱いだ。余剰ガスは通常、圧力を緩和し、環境への悪影響を軽減するために燃やされる。「ガスフレアリング」と呼ばれるこのプロセスは、貴重なエネルギーを浪費すると同時に、大量の二酸化炭素や他の汚染物質を排出する。
だが長い間、この問題を解決できるような、費用対効果の高い代替手段は存在しなかった。発生する余剰ガスが比較的少量のため、高コストのインフラ整備や運用上の変更を行ってまで、代替手段に切り替えるのはわりに合わず、その結果、フレアリングが主要な手段として残り続けたのである。余剰ガスの回収を試みた企業もあったが、そうした取り組みはあくまで、環境規制を守るために多大なコストを負担して行うもの、と見なされていた。
そのようななか、一部のビットコインマイニング業者が、自分たちとエネルギー企業の双方に有益な形でこの問題を解決するチャンスに気がついた。ビットコインマイニングは大量のエネルギーを消費し、かつ活動の場所を柔軟に変えられるという特徴を持つ。それを活かして、彼らは燃やされ、無駄にされてきた余剰ガスを発生場所で再利用する可能性に注目し、実現に向けてさまざまな革新的手法を開発した。
たとえば、米コロラド州デンバーに拠点を置くクルーソー・エナジー・システムズは、余剰ガスを回収し、採掘現場でビットコインマイニング用の電力に変換する独自の手法を生み出した。テキサスのスタートアップ企業ギガ・エナジーは、ビットコインマイニング用のハードウェアを搭載した輸送コンテナを油井に直接設置し、発電機によって余剰ガスをマイニング用電力に変えるモバイルソリューションを開発した。
ビットコインマイニング業者による革新的なソリューションは石油・ガス会社に、余剰ガスを収益性の高い資産に変え、フレアリングの運用コストを削減し、環境への取り組みへの評価も高まる、という多大な利益をもたらした。一方、ビットコインマイニング業者の側も、よりクリーンでコスト効率の高いエネルギー源へのアクセスを手に入れた。
この取り組みによって、誰か損をしただろうか。いやむしろ、既存の業界の垣根を超えた新たな市場が創出され、すべての関係者──石油・ガス業界、ビットコインマイニング業者、環境、経済、そして社会全体──が恩恵に浴することができた。