米国の中国依存度の高さを3つのビタミンから解き明かす
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サマリー:中国との貿易戦争が再燃するおそれがある中で、米国企業は中国とのデカップリングを進めるべきだという声がある。しかし、それは容易ではない。なぜなら、幅広い領域で中国製品に依存しているからだ。筆者らの調査に... もっと見るより、特に3つのビタミンに関しては、中国製品への依存度が著しく高いことが明らかになった。 閉じる

中国に著しく依存している3つのビタミン

 中国との貿易戦争再燃の可能性が高まるなか、グローバルなサプライチェーンを持つ米国企業は、レジリエンス(再起力)を高め、中国とのデカップリング(貿易関係断絶)を進めるべきだという声が上がっている。

 だが、それを実行に移すのは容易ではない。保護主義的な措置を検討している企業リーダーや政策立案者らは、攻撃的なアクションを起こす前に、いかに幅広い領域で中国製品に依存しているかを理解すべきだ。その内容は、彼らに驚きをもたらすだろう。筆者らの研究(未発表)で明らかになった、3つのビタミンの中国製品への著しい依存度は格好の例だ。米国の食料品店に置かれている日用品の一般的な成分を調べたところ、中国産の葉酸(ビタミンB9)、ナイアシンアミド(ビタミンB3)、ビオチン(ビタミンB7)への依存が明白になった。

葉酸(ビタミンB9)

 葉酸は、細胞の健康的な成長と機能を促進するうえで不可欠なビタミンであり(妊娠初期の女性には特にそうだ)、米食品医薬品局(FDA)は1998年以降、ビタミン強化シリアルに葉酸の添加を義務づけている。シリアルだけでなく、ビタミンを強化したパンや小麦粉、パスタ、米などの穀物製品にも葉酸は含まれている。世界保健機関(WHO)は2023年、微量栄養素欠乏症および脳と脊髄における先天性欠損症を防ぐために、葉酸による食品の栄養強化を推進する決議を採択した。葉酸は動物飼料の重要な成分でもある。

 ところが、米国には葉酸のまともな代替供給源がなく、中国からの輸入に大きく依存している。米税関・国境取締局(CBP)のデータによると、中国は米国の2023年の葉酸輸入量(貨物数ベース)の58%を占め、5年前の42%と比べて大幅に伸びている(CBPのデータは貨物数のみで、数量のデータはない。ただ、1回の貨物に含まれる量に平均値があるとすれば、一定の目安になるだろう)。中国は年間約3000トンの生産能力を有する合成葉酸の最大の生産国だ。米国飼料産業協会(AFIA)によると、米国のビタミン製品輸入量に占める中国製品の割合は約78%に達する。

 葉酸を工業生産するプロセスでは、アンモニア性窒素と無機塩類を大量に含む酸性廃水が、葉酸1トン当たり250~300トン生じる。米国の葉酸生産が縮小し、中国製品に依存するようになったのは、この工業廃水の処理コストが高くつくからだ。中国でも2015年初め、新たな環境保護法が2つ施行されたことを受け、多くのメーカーが葉酸の生産を打ち切った。これは世界的な葉酸の供給不足をもたらし、2014年1~3月期はキロ当たり22ドルだった価格は、翌年同期には445ドルに急騰した。だが、中国企業は廃水処理方法を改良し、生産能力も拡充してきた。

 米商務省は最近、サプライチェーンのさまざまな脆弱性リスクを加重集計したリスク評価ツール「SCALE」を公表した。そこで葉酸のサプライチェーンリスクをSCALEで評価してもらったところ、「敵国依存度」のリスクが高いという結果が示された。つまり、米国がデカップリングすべき国に依存しているということだ。ただし、輸入元は10カ国あるため、そのサプライチェーンによって需要は満たされるという合理的な自信も示された。さらにナイアシンアミドとビオチンについてもSCALEで評価してもらったところ、「敵国依存度」が一段と高いことが示された。そこで筆者らは、あらためて食料品店の置かれている商品を調べてみることにした。

ナイアシンアミド(ビタミンB3)

 ナイアシンアミドは、環境刺激や紫外線、乾燥から肌を守るバリアづくりに効くことがわかっており、多くのスキンケア商品に使われている。洗顔料や日焼け止め、美容液、保湿液など市販されている多くの美容製品の主要成分でもあり、色素沈着症や、にきび、しわ、乾燥など、あらゆる肌タイプに共通する問題に対処する役に立つ。

 2023年、ナイアシンアミド配合美容製品の市場規模は世界全体で推定5億5900万ドルに達した。キールズ、オレイ、ニュートロジーナ、エステーローダーなどの主要ブランドが、ナイアシンアミド配合スキンケア商品の開発・マーケティングに投資している。その輸入が途絶えれば、これら美容製品の価格と、長期的には入手可能性にも影響を与えるだろう。