後払い決済BNPLは消費行動をどう変えるのか
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サマリー:ネット通販における後払い決済「BNPL」(バイ・ナウ・ペイ・レイター)の提供拡大は、買い物における支払い方法を大きく変えつつある。消費者はBNPLを利用して分割払いを選ぶことが増える一方で、小売店は手数料負担... もっと見るが生じ、また消費者はトラブルに陥るおそれも出てきている。本稿では、BNPLが消費行動に与える影響を理解し、小売店が投資する価値があるものなのかどうかを分析する。 閉じる

後払い決済「BNPL」を選ぶ消費者が増えている

 ネット通販におけるアフターペイやクラーナといった後払い決済「BNPL」(バイ・ナウ・ペイ・レイター)の提供拡大は、買い物における支払い方法を大きく変えつつある。消費者は、デビットカードやクレジットカードではなくBNPLを利用することで、手数料のかからない分割払いを選ぶことが増えているのだ。しかし、BNPLは小売店に手数料負担が生じる上に、最近では消費者がトラブルに陥るおそれが指摘されるようになり、政策当局が規制に動き出している。

 こうした状況から、BNPLが消費行動に与える影響とその理由を早急に理解する必要がある。小売店にとって、BNPLは投資する価値があるものなのか。消費者にとって、何がそれほど魅力的なのか。そして誰が消費行動を変えているのか。それはなぜなのか。

BNPLが個人消費に与える影響

 『ジャーナル・オブ・マーケティング』誌に掲載予定の筆者らの研究では、BNPLが個人消費の拡大につながることが明らかになった。これは、米国の小売大手におけるBNPLを導入前と導入後の取引データに基づき、BNPLを選んだ顧客7万5000人と、選ばなかった顧客20万人の消費パターンを比較したものだ。

 その結果、BNPLは即時的かつ大幅な支出増加につながることがわかった。決済手段にBNPLを選ぶ顧客は、実際に購入に至る可能性が17%から26%に上昇する。また、1回のショッピングの購入額も、BNPLを選ぶ前より平均10%増えた。特筆すべきことに、こうした支出の増加は一時的なものではなく、6カ月近く続き、BNPLが個人消費を短期的に急増させるのではなく、長期的に増やすことを示した。

 それにより最大のダメージを受けるのは誰か。筆者らの分析によると、BNPLのインパクトが大きいのは「経済的に制約のある買い物客」であることが明らかになった。このタイプの消費者はクレジットカードへの依存度が高いが、クレジットカードへの依存度が低い消費者(デビットカード利用者など)と比べて、決済方法にBNPLを選んだ後に実際の購入に進む可能性が高くなる。同じように、「経済的に制約のある」消費者は、かつては1回の買い物における購入額を抑えていたが、BNPL選択後はそれが14%増えた。これに対して、1回の買い物額がすでに大きかった消費者では、BNPL選択後の買い物額は3%増に留まった。

BNPLはなぜ支出増加を促すのか

 BNPLが個人消費を増加させる理由を明らかにするために、筆者らは、架空の買い物で、消費者に一括払いまたは分割払いを選んでもらう一連の実験をした。より高額な買い物をするためにBNPL分割払いを選ぶことがないよう、購入額などの条件はすべて同一に揃えた。

 これらの実験を通じて、BNPLの分割払いを選んだ人は、一括払いを選んだ人よりも、経済的な制約をさほど感じないと答えた。BNPLの分割払いでは、1回目の支払いをただちに行う必要があり、一括払いのほうが支払い時期を遅らせることができるにもかかわらず、分割払いでは経済的制約が小さく感じられるという効果は、購入する商品の種類や、分割払いの回数に関係なく見られた。

 追跡調査では、この効果に寄与する2つの大きな要因が明らかになった。まず、分割払いにより1回の支払いを少額に抑えられるBNPLの性質は、自分の予算を自分で管理しているという感覚を消費者に与える。金額は大きくても一括払いのほうが支払い時期を先延ばしにできるのに、1回の支払いが少ない分割払いのほうが対処しやすいという感覚を与えるのだ。第2に、分割払いにより1回ごとの支払い額が少なくなると、消費者は購入そのものの負担が軽いと感じる。これらの要因が相まって、消費者は経済的な制約をさほど感じなくなり、1回のショッピングでさらに多くの商品を買い物かごに入れるようになる。