
-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
第一次トランプ政権の関税引き上げがもたらしたもの
ドナルド・トランプ次期米大統領は2024年11月末、米国の3大貿易相手国に対して新たな関税を導入する計画を明らかにした。トランプはみずからが所有するSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、2025年1月の大統領就任初日に、カナダとメキシコからの全輸入品に一律25%の関税を課すとともに、中国からの輸入品は10%の追加関税を課す大統領令に署名すると書き込んだ。これに先立ち、トランプは、中国製品に60%の関税を課すほか、輸入品には10~20%の関税を課すと脅していた。この保護主義的な計画は、近年に例のない形で米経済を再編する可能性がある。
この最新の措置を発表する前から、新しい関税の影響(おおむね中国に対するものと思われていた)は、企業の行動に影響を与えていた。米靴小売大手スティーブマデンは、輸入品の70%を占めてきた中国での生産を半減する計画を明らかにした。多くの企業も、輸入品の価格上昇に備えて、在庫を増やしている。
しかし、これには少しばかり前例がある。トランプは1期目に、米国としては1930年代以来となる保護主義的な政策を取った。最も顕著だったのは、対中関税(さらに中国の米国に対する報復関税)により、米中貿易の6割が20%の関税の対象となったことだ。その後、バイデン政権下で米中の通商関係は安定したが、関税率はほぼそのまま維持された。
したがって、こうした政策の影響と、それが政策立案者と経済学者らが期待した通りの効果をもたらしたかどうか研究する時間は、数年あったことになる。また、こうしたコスト上昇を究極的には誰が負担したかも研究された。
「経済学者が『誰が関税を払うのか』と言う時、意味しているのは、『輸入品の価格は下がるのか』ということだ」と、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の経済学教授、パブロ・ファイゲルバウムは言う。ファイゲルバウムは米中貿易戦争の影響について、複数の論文を書いてきた。トランプ関税の背後にある理論は、中国の輸出業者らは、対米輸出品が減ることを恐れて、値下げを強いられるというものだった。
だが、それが実際にどう機能するかは、無数の要因に左右されると、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)教授のアルベルト・カバロは言う。カバロは、2018~19年の米中貿易戦争時の関税が物価に与えた影響について最近発表された論文の著者の一人だ。こうした要因には、「関税の規模と範囲、影響を受ける商品やサービスに代替供給者があるかどうか、また、貿易戦争の持続性とエスカレートに関する企業の期待」が含まれる。
では、前回の関税は具体的に何を達成したのか。これらの研究結果を紹介しよう。
関税は中国からの輸入品のコストを下げることはなく、米国では特定の商品の末端価格が上昇した
総じて、第一次トランプ政権の関税を負担したのは、米国の輸入業者と、レベルは下がるが米国の消費者だったことが、ファイゲルバウムとカバロらの研究で明らかになっている(中国の輸入業者も報復関税のコストの一部を負担した)。