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変革プログラムはなぜ失敗するのか
米国の大手金融機関が組織全体の変革を進めるに当たり、外部の支援が必要となり、ベテランのエグゼクティブコーチで変革コンサルタントでもあるデボラに助けを求めた。同機関は、技術革新による混乱、顧客の期待の変化、規制圧力の高まりに対応を迫られており、変革プログラムをこれらの課題に対する必然的な解決策と捉えていた。
デボラは着任するとすぐに、全階層の従業員と対話を重ねた。変革後の職場について、多くの従業員が「戦場の作戦本部」や「ハンガーゲーム」(生き残りをかけて熾烈な戦いを繰り広げるゲーム)といった表現を用い、否定的に捉えていることが明らかになった。同機関が実施した従業員の意識調査の結果も、彼女の聞き取り内容を裏づけるものだった。従業員は変革の必要性を理解していたものの、すでに業務負担が限界に達しており、新たな取り組みを進める余裕はないと感じていた。
デボラは当初、同機関がすでに始めていた変革プログラムの個々の取り組みを調整するつもりでいた。だがすぐに、より根本的な改革が必要であることに気づいた。各部門固有の課題や制約に応じて調整できる戦略が必要だったのだ。この調整がなければ、どれほど有効な取り組みも頓挫するか、裏目に出る可能性があった。
筆者らは大学教授および人事戦略アドバイザーとして、15年以上にわたり多様な業界の変革を研究してきた。その過程で、デボラが直面したような状況に頻繁に遭遇してきた。組織は最善の意図で綿密に変革を計画・実施するものの、その後、目標達成に苦慮することが多い。
なぜこのような事態が頻繁に起こるのかを探るために、筆者らは、20の組織に属する4300人以上の従業員を対象に、数年にわたる大規模な調査研究を実施した。その調査研究を通じて、変革に取り組む組織が直面する本質的な課題に関する深い洞察を得た。その知見をもとに、変革を成功に導くための5段階のプロセスを設計した。
デボラが金融機関の変革プログラムにデータに基づいた精度の高いアプローチを導入したいと考えたことで、筆者らにとってこの手法を実証する絶好の機会が生まれた。そして彼女はこの試みで大きな成功を収めた。彼女の取り組みにより、従業員の適応力と協働が促進されただけでなく、財務的な成果の可能性も実証された。この実証実験の結果、チェンジマネジメント(変革管理)への投資収益は200%以上に達した。
この成果を高く評価した同機関は、5段階のプロセスを組織全体に展開するようデボラに依頼した。本稿では、このプロセスの概要を説明する。
戦略と動機づけスタイルの適合
変革を試みるリーダーの多くは、3つの典型的な失敗を犯す。第1に、組織や部門がどのような変化に直面しているのかを明確に定義していないため、具体的な目標を設定できない。第2に、「探索」(イノベーションとリスクテイク)と「深化」(既存プロセスの最適化)のバランスを考慮せず、一律の戦略を適用してしまう。そして第3に、誰が変革を推進するのか、また従業員のスキルや変革への適応度の違いが成功に及ぼす影響を考慮していない。