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企業文化の継続的改善
トヨタ自動車を世界で最も偉大な企業の一つにしたのが、トヨタ生産方式(TPS)であり、あらためて強調するまでもなかろう。この画期的な生産方式により、トヨタという日本の巨人は、世界で最も優れた製品を最も低いコストで製造し、迅速に新製品を開発できるようになった。
TPSと似たような生産方式を導入しているのは、クライスラー、ダイムラー、フォード・モーター、ゼネラルモーターズ(GM)、本田技研工業(ホンダ)といったライバルだけではない。病院や郵便局などでも、効率改善のために、TPSを支えるルールやツール、業務慣行を取り入れている。
リーン生産方式の専門家たちが、TPSの素晴らしさを何度も熱心に説いてきたおかげで、あいまいなことの多い世のなかにあっても、トヨタの成功はTPSの賜物であることは揺るぎない事実であるかのように信じている人たちも多い。
しかし、他のあまたあるトヨタ神話と同じく、TPSがトヨタのすべてではない。TPSがトヨタに成功をもたらしたことは、部分的な真実でしかなく、これだけを取り上げるのは危険である。
我々は6年間にわたってトヨタを研究し、その過程でトヨタの11カ国の施設を訪問して、数多くの社内会議やイベントに参加し、社内資料を分析した。また、現代表取締役社長の渡辺捷(かつ)昭(あき)から現場社員に至るまで、220人に上るトヨタの社員と元社員へのインタビューを実施した。
トヨタの成功にTPSは不可欠だが、それだけですべてを説明するにはおよそ不十分であることを、我々の研究は示している。端的に申し上げれば、TPSは「ハード」面のイノベーションであり、生産方式の継続的改善を促すものである。トヨタはその上に、「ソフト」なイノベーション、すなわち企業文化に関わるイノベーションを積み重ねてきた。
トヨタの成功は、社内のさまざまな場面で矛盾や逆説を生み出すところにある。たえず挑戦を繰り返し、さまざまな問題と格闘し、斬新なアイデアが求められる企業文化のなかで、社員たちは仕事に取り組まなければならない。これこそ、トヨタで不断に改善が重ねられている理由といえる。
ハードとソフトのイノベーションは不可分のものである。1本のシャフトで結ばれた車輪のように、等しく重みを分け合いながら一組となって、トヨタを前進させている。トヨタにおける矛盾の文化は、TPSと同じく、その成功に大きな役割を果たしているにもかかわらず、これまでライバルや専門家たちは見逃してきた。