エジソンこそデザイン思考の持ち主

 トーマス A. エジソンは、白熱電球を発明し、ここから一つの産業を築き上げた。それゆえ多くの人たちが、エジソンの代表的な発明として、まず電球を挙げる。しかし、電球が電球として機能するには電力システムが不可欠である。このシステムがなければ、電球は一種の見世物にすぎない。この点を理解していたからこそ、エジソンは必要なシステム全体を創出したのである。

 したがって、エジソンが天才たるゆえんは、個々の発明品だけでなく、完全に発達した市場までも思い描ける想像力にあった。彼は、人々が自分の発明品をどのように使いたいと思うのかを想像できたからこそ、これを実現しえたのである。とはいえ、いつも彼が思い描いたとおりだったわけではない。たとえば蓄音機は、エジソンによれば、主に口述を録音・再生する事務機として利用されるはずだった。

 彼はユーザーのニーズや嗜好を必ず検討した。エジソンのアプローチは、イノベーション活動の全領域にわたって、人間中心のデザインの真髄を吹き込むアプローチ、いわゆる「デザイン思考」の初期の例といえる。

 ここで、デザイン思考のアプローチを定義しておこう。

「『人々が生活のなかで何を欲し、何を必要とするか』『製造、包装、マーケティング、販売およびアフター・サービスの方法について、人々が何を好み、何を嫌うのか』、これら2項目について、直接観察し、徹底的に理解し、それによってイノベーションに活力を与えること」

 一般的に、エジソン最大の功績は、現代的なR&D実験室および実験的調査方法を発明したことだといわれる。しかし、彼は狭い分野に特化した科学者ではなく、鋭いビジネス感覚を持った万能型のゼネラリストだった。

 ニュージャージー州メンロパークにエジソン研究所を設立し、才能あふれる修繕屋や即興家、実験家を呼び集めた。実際、彼はイノベーションにチーム・アプローチを初めて採用し、「孤高の天才発明家」という固定観念を打破したのである。

 この発明チームははつらつとし、和気あいあいとしていた。この仲間意識は、エジソンの伝記作家たちが好んで取り上げる題材である。しかし同時に、この発明プロセスは、際限なく繰り返される試行錯誤をも特色としていた。天才に関するエジソンの名言にあるように、まさに「99%の努力」だったのである。