サプライチェーンが混乱した時、迅速に対処する方法
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サマリー:近年の地政学的リスクや物流問題により、サプライチェーンの混乱は避けられない。こうした脆弱性は、企業の利益にも大きな影響を与える。そこで、レジリエンスを高める方法として、筆者らは「早期警報システム」(EW... もっと見るS)を提案する。EWSの導入には、データの統合、AIによる異常検知、迅速なリスク対応がカギとなる。本稿では、実際の企業事例を交えながら、EWSを活用してサプライチェーンの強靭化を図る方法を具体的に解説する。 閉じる

サプライチェーンのレジリエンスをいかに高めるか

 多くのエグゼクティブは言われるまでもなくわかっていることだが、サプライチェーンは容易に混乱に陥る。2023年からの紅海周辺の情勢悪化によって、スエズ運河の通航船舶数が3分の2に減少したことを思い出す人もいるだろう。玩具から航空機に至るあらゆる物が価格の高騰や不足に直面するなど、その波及効果は全世界に及んだ。

 サプライチェーンは効率を重視した結果、驚くほど複雑化してきた。だが、その複雑さの中に脆弱性の種があり、それがトラブル時に効率を損ないかねない。これは単なる理論上の話ではない。実際に2023年のマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査では、サプライチェーンの打撃は、平均して、企業の1年分の利益の約45%に相当する損失が10年間にわたって発生することが明らかになった。それに対処するには、レジリエンスを高めるしかない。

 当然ながら、多くの企業はレジリエンスを強化する対策を取っている。緩衝在庫の構築、二重調達、リショアリング(生産拠点の国内回帰)などだ。それでも、前述のマッキンゼーの調査では、混乱への対処について自社の準備は十分であると回答したリーダーは3分の1に満たず、4分の1は準備が不十分だと答えた。

 しかし、レジリエンスの強化策として実証済みかつ実践的な方法がある。それは早期警報システム(EWS)の設置だ。優れた設計のEWSは、車の警告灯のように、小さな問題が大きくなる前に企業に警鐘を鳴らすことができる。筆者らが協働するある企業はEWSを実装し、部品不足を6カ月で70%減らした。また、筆者らと協働するあるメーカーはEWSを使用することで、品質欠陥を最初の1年で40%削減した。

 EWSの導入は、以下のように始めることができる。

1. 統合型・集中型のデータ保管システムを構築する

 しばしば「データレイク」と呼ばれる企業全体のデータのリポジトリ(保管場所)には、定量データ(エンジニアリング、オペレーション、契約、財務、生産に関する運用や財務、および事業プロセスの指標)と定性データ(サプライヤーの現地視察報告など)の両方が入っている。EWSで肝心なのは、あらゆる方面からのリスクを精査することなので、データレイクに流れ込む情報は多ければ多いほどよい。たとえば、現地視察を実施すると、中核的な存在だったスタッフが辞めたとか在庫が急増したといった状況が明らかになり、こうした現場レベルでの知見は、個々の指標では捉えられない。さらにデータレイクには、原材料の在庫状況、輸送の混雑、手元現金などの外部情報も含めることができる。

 バリューストリーム全体を網羅した、詳細かつ信頼できる情報を収めたデータレイクを構築するのが理想だが、それは簡単ではない。データソースによってフォーマットやスタンダードが異なることもあれば、ガバナンスやアクセシビリティ(利用しやすさ)に関する課題もあるだろう。データレイクの構築に着手したある自動車会社は、データベース内の不正確なデータなどを修正・削除して使用に適したものにするまでに、1年以上かかった。

 こうした理由から、関連性が強く、質の高い、小規模なデータセットから着手して、定期的に更新するのが実用的かもしれない。そうしたデータは通常、基幹業務システム(ERP)、品質管理システム(QMS)、製造実行システム(MES)などの中核的なオペレーションシステムで手に入る。