AI導入の成否を分けるのは、財務部門の戦略的視点である
Jorg Greuel/Getty Images
サマリー:企業は猛烈なスピードでAIの導入を進めているが、思いとは裏腹に、実際に導入は進んでいない。筆者らの研究によると、企業がAIプロジェクトを成功させるカギは、財務部門の戦略的役割にあることがわかった。ビジネス... もっと見るとテクノロジー部門の協働に加え、財務部門がデータに基づく投資判断を行うことで、AIの効果を損益に結びつけることが重要になる。 閉じる

AIプロジェクトの成功に欠かせない財務部門の視点

 これまで、企業は猛烈なスピードでAIの導入を進めてきた。しかし、ビジネス界のAIに対する熱い思いと、実際の導入状況の間には、いまだに大きなギャップがあるのが現実だ。

 最近、筆者らが750人の企業幹部(テクノロジー業界が150人、それ以外の業界が600人)を対象に行った調査によると、回答者の65%は、AIとその恩恵について高度な知識を持っていると自負しており、18%は最先端の知識を持っているとまで述べている。ところが、AIテクノロジーにより価値を生み出し、自社の損益に好影響を与えるための最先端の能力を持っていると回答した人は、わずか6%に留まった。

 筆者らがこれまで行ってきた研究と経験によれば、AIプロジェクトが高い成果を上げるうえで重要なのは、テクノロジーそのものではなく、テクノロジーを「いつ」「どこで」「どのように」活用するかを「誰」が決めているのかという点だ。

 ビジネス部門とテクノロジー部門のリーダーが協働すべきであることは、言うまでもない。どちらかの部門のリーダーがAIプロジェクトを自分のものにしてしまってはならないのだ。しかし、筆者らはさらに詳しく知りたいと考えた。ビジネス部門とテクノロジー部門のリーダーがどのような会話をしているのかを調べて、プロジェクトの成否を分けるのがどのような要素なのかを明らかにしようと思ったのだ。

 そこで、マイケル・ポーターのバリューチェーンを修正したものを回答者であるビジネス部門とテクノロジー部門のリーダーたちに示し、それをもとに、自社のAI投資の状況を回答させた。具体的には、5つの主要な業務──調達とサプライチェーン、オペレーションと生産、受注対応と流通、マーケティングと価格設定・販売、顧客インサイトと顧客サービスと顧客体験──と、4つの支援業務──人的資源管理、財務、プロダクト開発とプロセス開発とテクノロジー開発、リスクへの対処とコンプライアンス──のなかから、自社が特に優先している領域を3つ選ばせたのだ。

 すると、直接部門と間接部門のリーダーが協働してAIプロジェクトを成功させるうえでは、財務部門の果たす役割が大きいことがわかった。まず、データに基づいて、企業がどのような領域に投資しているのかを見てみよう。

企業は最も大きな価値が生まれる領域に投資している

 調査対象の企業すべてを見た場合、最大の投資先になっているのは、顧客インサイトと顧客サービスと顧客体験の領域だった。53%の企業がこの領域を自社のAI投資の優先分野の一つとして挙げている。それに続く2番目がオペレーションと生産、そしてその次がプロダクト開発とプロセス開発とテクノロジー開発だった。

 ただし、どのような領域への投資が多いかは、業種によって違いがある。航空宇宙、エネルギー、工業など、資本集約型産業の企業は、オペレーションと生産の分野への投資を最も優先させていた。その後、プロダクト開発とプロセス開発とテクノロジー開発が僅差で続く。一方、消費者向けビジネスの企業では、マーケティングおよびセールスと、顧客関連の活動がトップを争い、その後、僅差でサプライチェーン関連が続いていた。