働く親が子どもとの時間を優先することの代償
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サマリー:仕事と育児、介護を両立する労働者は、時間不足から職場での交流をみずから管理し、関係構築の機会を失っている。これにより仕事の成功は収めつつも、会社への帰属意識の低下や社交性の欠如を招く。このような状態に... もっと見るあるビジネスパーソンは、交流の重要性を認識し、工夫して時間を確保する必要がある。一方、マネジャーは費やした時間ではなく結果を重視した評価や、親であるメンバーに配慮した関係構築の支援を行う必要がある。 閉じる

子どもや親のケアで時間に追われている労働者が失っているもの

 ジェナはストレスを感じている。クライアント報告書のために調査をし、一部を書き上げ、息子を学童保育に迎えに行くために午後5時までにオフィスを出なければならない。猛烈な勢いで仕事を進め、ようやく本調子になってきた時、同じフロアにいる同僚のセスがオフィスにやってきて、週末はどう過ごしたのかと尋ねてくる。ジェナは微笑み、礼儀正しいながらもそっけなく、よい週末だったと返す。質問には答えず、セスが去るとすぐにジェナは報告書に戻る。

研究

 このような経験は、筆者らが調査した、製薬会社、専門サービス機関、大学という3つの組織で働く親たちに共通して見られた。インタビューと観察を行った労働者72人は、ほぼ全員が卓越した仕事をすることに献身的に取り組んでいた。調査の結果、みずからが主に世話をしている幼い子どもがいるか、配偶者とその役割を分担している人は、時間が足りないと感じていることがわかった。この結果は、当然ながら子どもを持つ親や、高齢者介護などケアの大きな責任を担っている人にとっては驚くことではない。しかし、そうした労働者が「典型的な」時間管理(スケジュール管理など)に加えて、人との「交流」を管理しようとしていることも研究で明らかになった。

時間がない時の交流の管理

 ジェナのように研究に参加した親たちは、一連の戦略によって人との交流に対処しており、筆者らはその戦略を「交流の実践」と名づけた。

・ランチの誘いを断り、部署の懇親会には行かず、けっして自分から雑談をしないことで交流を「避ける」。
・在宅勤務をしたり、皆が仕事の打ち合わせをしている時間にこっそりトイレに行ったりして、同僚から「身を隠す」。
・ミーティングは連続して設定し、「打ち合わせがあるため話を終わらせなければなりません」と伝えて(単に「すみません、これ以上は話せません」と言うのは無礼だと思われると親たちは認識している)、前のミーティングをすぐに終了できるようにすることで、交流を「計画する」。
・会議での会話は、仕事以外の活動から目の前の仕事の話に変えることで、交流に「集中する」。

関係構築のコスト

 このような交流の実践によって、ケアの時間をつくるため、純粋に仕事に集中できない職場での交流を断つという彼らの目的は達成されていた。これらの労働者は献身的なプロフェッショナルでありながら、仕事上の成功を収める一方で、朝、夜、週末は子どもと過ごしていた。

 しかし、こうした交流の実践には代償が伴っていた。このような戦略によって交流を徹底的に管理しようとした親は、職場で成功するために重要であることが大規模研究で示されている「同僚との関係」が希薄になっていた。親しい友人が1人か2人いる(広い人脈は、維持できなくても重要であることが研究でわかっている)ことはあったが、親しい友人が多いとは感じられず、職場への帰属意識に欠け、職場のゴシップにも疎かった。

 家族との時間をつくることと人間関係を発展させることは、トレードオフの関係にあった。それは、ケアをする責任を持たない労働者、つまり子どものいない男女や、妻が子育てを取り仕切る父親(調査対象者の中には配偶者がそれをしているという母親はいなかった)を調査することでわかった。それらの労働者は職場での社交性がより高く、レストランで長い昼休みを取る、廊下でおしゃべりをする、オフィスを行き来して同僚と仕事の噂話をする、仕事の後にバーに行くなどしていた。しかし、彼らは仕事もこなさなければならないため、趣味や仕事以外の友人との時間、そして父親たちにとっては子どもとの時間は少なかった。

すべきこと

 多くの親が経験する時間不足の問題を解決する簡単な答えはないが、筆者らの研究は、親とマネジャーの双方に示唆を与えるものだ。