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多数のイノベーションで成り立つ製品をどうマネジメントするか
自動運転車は、21世紀の最先端技術のように思われているかもしれない。広く普及するまでには、いまだ障害が多い難物である。しかし自動運転技術は、実際には丸1世紀にわたって断続的に進化してきた。その進化の過程は、開発スピードとコストの異なる複数の技術に依存するイノベーションがゆっくりと進展する場合、企業はどのように対処すべきかを教えてくれる。
1925年、フォード・モーターは、無人でブロードウェイを上り、5番街を下り、渋滞も乗り切ったという「アメリカン・ワンダー」と呼ばれる車のデモンストレーションを行った。この車は、後続の別の車から無線を使って遠隔操作されていた。厳密には自動運転ではないが、それでも当時としては驚くべき成果であった。
1958年には、ゼネラルモーターズ(GM)が実験的なコンセプトカー「ファイヤーバードIII」を展示した。この車は電気誘導システムを搭載しており、ドライバーがハンドルから手を離してリラックスしている間も、自動で高速道路を走行することができた。とはいえ、このシステムは回路が埋め込まれた400メートルほどの道路でしか機能しなかった。
2005年には、米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)による5台の自動運転車が、モハベ砂漠の150マイル(約241キロ)のコースを無事に走破した。以来、グーグル、テスラ、アップル、そして多数のスタートアップ企業が自動運転技術に数十億ドル投資しているが、多額の投資にもかかわらず、自動運転車はまだ少数の都市のパイロットプロジェクトで小規模にしか使用されていない。
この技術の商業化は、なぜこれほどまでに難しいのだろうか。
自動運転車は、LiDARセンサ、MEMSセンサ(加速度計など)、GPS、5G移動通信、AIなど、さまざまな技術に依存している。これらの技術はそれぞれ異なるペースで成熟し、コストも同様に異なるペースで推移してきた。
たとえば、LiDARシステムを考えてみよう。LiDARは、車両の周囲や進路にある物体にレーザーを照射し、反射の戻り時間と波長の違いを利用して3次元形状をデジタルで再現し、位置を特定する。ヒューズ・エアクラフトが1961年に開発し、米国大気研究所(NCAR)が雲や大気汚染の分析にいち早く活用した。当初は数百万ドルもしたLiDARシステムも、いまでは100ドルから200ドルで利用できる。
同様に、1980年代に開発され始めたGPS機能も、広く利用されるようになったのは2000年代初頭になってからであり、2010年代半ばにはチップに組み込まれ、1個当たり5ドル未満にまでコストが下がった。急速に進化するAIの分野では、自動運転車が障害物を認識し、判断を下す能力とコストが月単位で改善し続けている。自動運転車は、すべての技術が十分に堅牢で、かつ手頃な価格になって初めて、100年以上も前から研究者たちが思い描いてきたような能力を十分に発揮できるのだ。
では、イメージする製品が、時間のかかる多数のイノベーション、つまり「長期熟成型技術」と考えられるものに依存している場合、企業はどのようなマネジメントを行えばよいのだろうか。基盤となる技術の開発が数十年単位で浮き沈みを繰り返すような状況では、その経過を追跡し、それに基づいて(早急に過剰な投資をせずに)R&D戦略を策定することは、かなり難しいと考えられる。
ほとんどの企業は、実用性と価格が商業化レベルに達するまで数十年かかるかもしれない技術を追跡する余裕はない。その一方で、適切な技術群が適切な成熟度とコストに達した場合、極めて破壊的な影響をもたらす可能性がある。しかもそれらの技術は、企業の盲点をついて現れるため、その影響は壊滅的なものになる可能性がある。