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日本企業のM&Aを「なぜ」と「どこ」から分析する
ますます多くの日本企業が、海外進出や自社の能力拡大、そして市場の拡大を目的として、M&A(企業の合併・買収)を行っている。では、日本企業によるM&Aは、どのような成果を挙げているのか。研究によれば、その買収の「なぜ」(why)と「どこ」(where)という観点がM&Aのパフォーマンスを説明するうえで重要な要因であることが示唆されている。
「なぜ」とは動機を指す。すなわち、その買収が、市場、技術や能力の深化(exploitation)を目的とした買収なのか、それとも探索(exploration)のための買収なのかというポイントに焦点を当てる。そして「どこ」とは、買収先が文化的および地理的に近い場所にあることで管理や統合が容易なのか、あるいは文化的および地理的に遠い場所にあるために困難なのかという観点である。
筆者らは、ディープテックやハイテク分野に精通したビジネススクールの教員として、企業再編、技術・イノベーション経営、そして組織の成功を導く戦略的手法を専門とし、十数年にわたり研究を続けてきた。さらに筆者らは実務経験も有しており、デロイトやマッキンゼー・アンド・カンパニーといった企業でキャリアを積んできた。長年の研究から得た学術的知見を、実務経験と組み合わせて提供する。
本稿では、日本企業による買収の「なぜ」と「どこ」について、米国企業、中国企業と比較しながら議論する。これらの国の企業は、それぞれ日本の標準モデルとは異なる企業文化を持つ特徴的な例である。米国企業、中国企業、そして日本企業は、それぞれ異なる戦略的動機に基づいており、M&A分析におけるベンチマークとなる。
過去の研究によれば※、米国企業は、先進国市場におけるイノベーション、技術、そして市場アクセスを重視し、即時的な利益よりも長期的な相乗効果を追求する傾向が強い。中国企業は、資源の確保や世界的影響力といった国家的優先事項に促されることが多く、しばしば国家の支援を受けながら、平均して高い利益を上げる傾向がある。一方で、日本企業はこの両者の間でバランスを取り、技術や製造業の強みを深化しながら、多様化と安定を目指す傾向がある。こうした特徴は、戦略的目標と財務的目標が混在した状況を反映している。
こうした点を踏まえ、本稿では、日本の経営史においても注目すべきいくつかのディールを定量的証拠と定性的事例として取り上げ、実用的な洞察を提供し、日本企業がより適切なM&A判断を行えるよう支援することを目的としたい。
「なぜ」:探索か深化か
M&Aを行うに当たり、企業は探索型(exploration)と深化型(exploitation)のどちらかに特化するアプローチ、またはその両方を追求するアプローチという選択肢を持つ。探索とは、新たな市場、技術、能力を追求することであり、一方、深化は既存のリソースを深化し、市場での地位を強化することに焦点を当てるものである。