なぜあなたの部下は発言してくれないのか
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サマリー:会議において、管理職やリーダーが一方的に発言し、他の参加者はただ黙って頷いていないだろうか。こうした状況が過度になると、組織の意思決定や判断が硬直化し、変化への適応力や革新性が損なわれることになる。そ... もっと見るこで重要となるのが「心理的安全性」の構築だ。本稿では、筆者が行ってきた組織心理学の研究などをもとに、思いがけず組織の心理的安全性の醸成を妨げてしまうリーダーの典型的な行動を紹介する。 閉じる

組織やチームの心理的安全性に注目が集まる理由

 あなたの職場では、会議中に出席者が自分の意見を気兼ねなく発言しているだろうか。また、業務遂行の場面で、確認事項や疑問がある場合に、同僚同士が遠慮なく話しかけ合っているだろうか。実際には、会議では管理職やリーダーが一方的に発言し、他の参加者はただ黙って頷くことが多かったり、業務中は同僚が忙しそうにしているのを見て話しかけるのをためらったりするケースが少なくないのではないだろうか。

 こうした上司への忖度や同僚への遠慮・配慮は、組織で働くうえで一定の意義があると考えられることもある。組織内での人間関係や活動を円滑に進めるためには、時に必要とされる要素かもしれない。しかし一方で、このような忖度や遠慮が過度になると、組織内の沈黙を生み出し、伝統や慣習を重視するあまり、新しい視点や柔軟な発想が失われてしまうリスクがある。その結果、組織の意思決定や判断は硬直化し、変化への適応力や革新性が損なわれることになる。

 現代の経営環境は、変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)が高い、いわゆる「VUCA」の時代と呼ばれている。このような環境では、内向きの円滑さを追求するよりも、変化に的確に適応し、迅速かつ柔軟な意思決定を促進することが、組織にとって緊急度の高い課題となっている。

 このような環境変化に適応し、将来にわたって持続可能性を高めるためには、組織の構成員の誰もが気づいたことや考えていることを自由に発言し、問題意識を共有し、適切な変革について議論できる風土や文化が必要である。このような環境を支える基盤が「心理的安全性」である。

 心理的安全性とは具体的には、職場のメンバーが「自分の考えを率直に発言しても、拒絶や批判、攻撃を受けたり、のちのち不利な扱いをされたりする心配がない」と確信でき、その確信が職場全体で共有されている状態を指す。一部のメンバーだけがその確信を持っているのでは不十分であり、職場全体でその信念が共有され、風土として定着していることが求められる。

 心理的安全性は、以前から「風通しのよい職場」の基盤として認識されてきたが、さらに忖度や遠慮の呪縛から組織を解き放つ重要な要素である。現在、組織の持続可能性を高める取り組みが喫緊の課題となる中で、心理的安全性の醸成と強化は、その取り組みの中核的基盤として注目されている。

心理的安全性と業績の関係性

 筆者は、社会心理学や組織心理学を専門にチームマネジメントなどの研究を行ってきたことから、心理的安全性に関して企業や官公庁の方々から質問や相談を受けることがよくある。そうした際に、企業の管理職との意見交換の場でよく投げかけられるのが、「職場の心理的安全性を高めれば業績は必ず向上するのか」という問いである。組織の最前線で戦う管理職にとって、心理的安全性が業績向上に結びつくか否かは関心の高い問題であることは容易に理解できる。