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ディープシークが示すシグナルとは
2025年1月下旬、中国のAI開発企業ディープシークによるR1モデルのリリースが引き金となり、モデル開発企業からインフラ提供企業までAIバリューチェーン全体の市場評価が急落した。既存の米国製AIモデルに対する強力かつ安価な挑戦者であるR1は、AI企業の膨大な評価額を正当化してきた高い成長見通しを脅かすものと投資家に判断された。
しかしながら、状況を注視してきた人々にとって、ディープシーク──またはそれに類するもの──の登場は必然のことであった。
それでも、この機会にAIの行く末についてじっくり考えることは有益だ。ディープシークR1を転換点と捉えるよりも、真の現状を示すシグナル、そして今後起こることの前触れと見なすほうが有意義である。
本稿では、ビジネスリーダーがこの局面から学ぶべき5つの教訓を紹介する。
パターン認識から、問題解決へ
2023~24年には大規模言語モデル(LLM)が脚光を浴びたが、2025年には、推論、計画、自律稼働ができるAIシステムに私たちは畏怖の念を抱くことになる。なぜなら2025年、「推論モデルの台頭」と「本格普及への準備が整ったAIエージェントの登場」という、2つの関連する潮流がAI業界を席巻するからだ。
これらの能力は、強化学習(RL)、つまり一連の正しい決定を行うよう知的エージェントを訓練する手法に大きく依存する。ビデオゲームのプレイ方法を学ぶようなものと考えればよい。的の中心に当てたり、広い溝を飛び越えたり、正しい単語を見つけたりするとポイントを獲得する。ゲームを進めながら、報酬が与えられる行動を取ることを学んでいく。
GPT-4のような前世代のモデルは、驚異的なパターンマッチング能力を持っていた。大量の情報で事前学習しており、それらをすべて文脈化し、次に来る言葉を不気味なほど正確に予測してプロンプトに答える能力で私たちを圧倒した。
オープンAIから最近リリースされたチャットGPT o3-miniや、マイクロソフトのコパイロットに統合されたo1と同様に、ディープシークR1は誰でも無料で使える推論モデルだ。これらのモデルは、不確実な次単語予測から、強化学習に大きく依存する体系的な問題解決への重要な移行を体現している。推論によって、たとえば数学の問題を解くといった特定のタスクにおいて、以前のモデルよりも格段に優れた能力を発揮することができる。
2つの大きな数字の掛け算に取り組む場合を考えてみよう。ほとんどの人は数字を見ただけで答えを当てることはできず、鉛筆とメモ帳を取り出して、問題を複数のステップに分けて解いていく必要がある。推論モデルも、ますますこれと同じことが可能となっている。
問題を分解して推論する能力を備えたAIエージェントは、事前に決められた固定的なスクリプトに制限されずに、複雑なワークフローをダイナミックに進めることを学習し、タスク遂行の過程で生じる新しい情報に適応していくことができる。