中国での事業戦略を4象限のフレームワークで見極める
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サマリー:中国で事業を展開するグローバル企業は、かつてないほど深刻な不確実性に直面している。それでもなお、中国は経済大国であり、重要な製造拠点である。本稿では、こうした不確実性の中で戦略を見直すグローバル企業に... もっと見る向けて、戦略的優先度と政治的敏感度という2軸に基づく「2×2フレームワーク」を用い、柔軟な戦略の再構築を提案する。 閉じる

戦略的優先度と政治的敏感度の4象限に分類する

 中国で事業を展開しているグローバル企業の経営陣は、これ以上ないほど深刻な不確実性に直面している。中国政府は対中投資を歓迎する政策と、それを規制する政策を場当たり的に繰り出している。また、米トランプ政権の誕生によって追加関税や輸出規制の可能性が再燃し、中国による報復を懸念する声も高まっている。さらに、中国経済の減速を受けて、一部の業界の多国籍企業では財務上の損失が生じており、今後の見通しも不透明だ。

 それでもなお、中国は世界第2位の経済大国であり、重要な製造拠点でもある。加えて、14億人超の人口と成長著しい中間層という規模の面だけを取っても、長期的な成長と競争力の強化を目指す企業にとって、中国はけっして欠かすことのできない市場である。

 こうした不確実性の時代には、従来の市場戦略や資源配分、リスク管理の枠組みでは十分に対応し切れない。グローバル企業のリーダーは、複雑な状況に適応するために戦略を再調整する必要がある。

 筆者は、中国の経済政策と米中のテクノロジー競争に関与してきた経験に基づき、経営者が中国戦略を見直す際に活用できる「2×2フレームワーク」を提案している。このフレームワークは、「中国政府にとっての戦略的優先度」と「事業展開に関するグローバルな政治的敏感度」という2つの重要な軸で構成される。

 本稿では、実際の成功事例を紹介しながら、「戦略的優先度が高く、政治的敏感度も高い」分野を皮切りに、4つの象限それぞれに適した戦略を提案する。このモデルに基づいた戦略を策定することで、グローバル企業のリーダーは、不確実で変化の激しい環境においても、レジリエンスと成長につながる道を切り開くことができる。

優先度が高い+敏感度が高い:重要なテクノロジー分野

 中国政府の優先項目は、技術革新と高品質の発展を重視する「新質生産力」の施策や、戦略的セクターと政策の方向性を詳述した5カ年計画などに示されている。企業はこうした枠組みを注視することで、中国が力を入れている政策との整合性を図ることができる。

「優先度が高く、かつ地政学的な敏感度も高い」産業は最先端技術の革新に関わる部門が多く、中国の技術的・経済的な未来を形成するのに不可欠と見なされている。たとえば、半導体、AI、クラウドコンピューティングなどは、優先度と敏感度の高い代表的な産業である。

 この分野に参入する外国企業は、規制や地政学、市場に関する複雑な状況を乗り越える必要があるが、中国政府がこの分野を重視している点は、企業にとって貴重な武器となる。たとえば、中国の半導体分野は外国企業の専門性に依存しているため、企業は政策決定者に積極的に関与しながら、自社の戦略を策定することができる。